
第106回・2026年5月11日掲載

5月3日の夜、フランス民法テレビTF1局のニュース番組のインタビューで、フランスの左翼第一野党服従しないフランス(LFI)の創立メンバー、ジャン=リュック・メランションは2027年春の大統領選への出馬を表明した。フランス第五共和政の大統領の任期は5年、再選されればもう一期だけ務められる。メランションは2012年に左の党と共産党の共闘候補として初出馬し、2016年にLFIが組織された後の2017年と2022年も候補だったので、これが4度目の出馬だ。2027年春には彼は75歳だから、おそらく最後の挑戦となる。
大統領選に向けたLFIのプログラム「共同の未来」は、2016年12月に最初に発表されて以来、その後の様々な状況、法・制度、国際情勢の変化に合わせてアップデートされてきた。気候温暖化に真に対処できる環境政策と社会保障、公共サービスの強化に尽力し、平和をめざし、より民主的な第六共和政の実現を掲げた急進左派の内容で、具体的な政策の融資額も計算されている。これまで数多くの市民団体、労組、専門家、研究者、当事者の聴取と提案によってこのプログラムは練られ、今後も市民参加の作業は続く。
(邦訳 『共同の未来』:法政大学出版局 https://www.h-up.com/products/isbn978-4-588-60375-4)
2025年版 フランス語 https://melenchon2027.fr/programme2025/livre/


メランションは2012年の大統領選第1回投票で11,1%を得票、2017年は19,58%で4位(2〜4位が接戦で、次点のマリーヌ・ルペンとの差は1,72%)、前回2022年には21,95%を得て僅差(1,2%)で決選投票を逃した。マクロンが当選した2017年以後、それまで政権交代を重ねた歴史的二大政党(保守/社会党)体制が崩れた。2017年、政権の座にあった社会党のオランド大統領は出馬を諦めたほど不人気で、社会党と緑の党の共闘候補は6,36%しか得票できなかった(「同時に右と左の政治を行なう」と謳ったマクロン与党に社会党と保守の一部が吸収された)。2022年の大統領選では保守LR、社会党、緑の党、共産党の4候補いずれもが5%以下の得票という惨敗を喫した。
一方、2007年の大統領選で保守の候補サルコジに票を食われた極右の国民戦線FN(2018年「国民連合RN」に改名)は、2012年から出馬したマリーヌ・ルペンのもとで着実に票を伸ばし(2012年17,9%、2017年21,3%、2022年23,15%)、2022年の総選挙以降は国会議員数も大幅に増やした。マクロン与党が弱体化した2024年6月の欧州議会選挙では、極右RNが30%を超えて首位になった。その直後、マクロン大統領は独断で国会を解散して総選挙が行なわれ、極右の政権獲得が懸念された(27の世論調査の全てがRNの勝利を予測した)。
そこで、極右に打ち勝つために急遽、左翼四党の共闘連合「新人民戦線NFP」が作られ、左翼候補を各選挙区で一本化して対抗し、また極右の政権獲得を阻止しようと大勢の市民が選挙キャンペーンに参加した。決選投票の結果、左翼連合が過半数ではないが首位になったが (RNは3位)、マクロン大統領は左翼連合政府を拒み続けた。以後、少数派のマクロン与党と保守LRの連立政府のもと、以前と同じ緊縮政策に加えて、極右の差別主義とイスラモフォビアを取り入れた政策が顕著になっている。

2024年の新人民戦線の共通政策の核は、2022年総選挙での左翼連合の際と同じくLFIの「共同の未来」である。ところが選挙が終わるとすぐ、残りの三党(社会党、緑の党、共産党)の指導部は共通政策を尊重しなくなり、LFIとメランションへの批判を強めていった。メランションは過激すぎて分裂を呼ぶので大統領選に勝てないという見解から、「LFIを除いた左派連合」による予備選挙を呼びかける人々(緑の党の党首、自分が候補になりたいのでLFIを離れた人たちなど)がいる一方、社会党や弱小政党から既に数人が大統領選の出馬意向を表明している。しかし、「共同の未来」のような未来のビジョンと全面的で具体的なプログラムを示す人は皆無だ(左派に限らず今のところ誰もいない)。しかしメディアでは20年来、世論調査の悪影響もあって、政治家の社会ビジョンや政策を解説や分析するより、人気投票のごとく人選ばかりに話題が集中するようになった。政策を掲げず、まともな政治議論を行なわずに大統領候補(あるいは議員)になろうとする政治家が増えたのは、全く嘆かわしい。
さて、LFIは4月に、それまでに作成した大統領選挙に向けた目標・方針と戦略を代表総会で決定し、活動家・支援者(サイト登録者)68120人の96,6%がそれを承認した。12部門の責任者と議員など約150人の指導部が候補者をメランションに決定した後、ネットで「市民推薦」を15万人募った。第五共和政の大統領候補になるためには、議員や市町村長、地方自治体責任者500人の「推薦」を必要とするが、この制度は従来から政治に携わる政党に有利に働き民主的でないため、憲法改正を検討する委員会でジョスパン元首相などが市民15万人の推薦を主張したことを参考に、LFIは2017年から市民推薦を取り入れている。メランションは今回、出馬表明から24時間以内に15万人の推薦に到達し、前回(4日間)よりさらに速かった。5月10日、推薦数は1週間で25万人を超えた(前回はこの数に到達するのに319日かかった)。
メランションが出馬を表明したTF1テレビ放送は540万視聴を記録したが(RNのバルデラ含む他の政治家のインタビューに比べて断トツ)、その直後にネット・メディアのBrutで2時間近くのインタビューを受け、それらの再生録画や抜粋の視聴数は2日間で2200万を超えた。主要メディアの全てがメランションとLFI批判とバッシングを何ヶ月、何年も激しく続ける中で、急進左翼の支持層は確実に増えているようだ。また、5月6日にメランションは、ネット・メディアや独立メディアに向けた記者会見を行った。インフルエンサーなどネット・メディア向けの記者会見は2月23日以来3回目である。9人の大富豪が9割のメディアを所有する寡占状況に対し、若い層が担う独立ネット・メディアの役割をLFIは重視している。
LFIのプログラム「共同の未来」を掲げて4度目の大統領選に挑戦する理由をメランションは、「フランスの民衆への手紙」と題して公表し、朝市などで活動家たちがそれを配布し始めた。手紙ではまず、私たちが世界史上、前代未聞の混乱の時代に入ったと述べる。気候変動の激化と生態系・共有資源の破壊が進むのに何の対策も立てられていない上に、全面(世界)戦争の危機も増している。長年のネオリベラル政策(とりわけマクロン政権)によって不平等が拡大し、医療、教育など公共サービスと福祉が破壊されて著しく劣化したために、とりわけ低所得層、移民系フランス人、女性、若者、海外自治体の住民などマイノリティ(社会的弱者)の生活難は増大した。ところが、極右の差別思考に染まった為政者、指導者層と主要メディアは、人々の不満を抑えて権力を維持するために、レイシズムやイスラモフォビアなど差別と憎悪を煽って民衆を分断する。
メランションは逆に、民衆(市民)が多様性を尊重しながらも一つにまとまらなければ、この時代の危機は乗り越えられないと言う。利己主義・競争社会ではなくて、相互扶助によって公益と共有資源を守らなくては、文明は滅びると。今こそ、各自が自由を享受できる「新しいフランス」をみんなで築く「市民による革命」の時が来たと、彼は呼びかける。市民の提案による国民投票、議員のリコール制などを取り入れた、より民主的な第六共和政を構築しようと。また、強国が踏み躙る国際法を適用させるために、非同盟主義に基づいて戦争の拡大を回避し、ジェノサイドや戦争犯罪をやめさせる役割をフランスは担うべきだと主張する。
貧富の差を激増させるグローバル金融資本主義、民衆を分断する差別主義に対抗し、公益と人間の自由・尊厳を尊重する別の世界を築くためのプログラムは今回、より多くの市民に届いて賛同を得られるだろうか。政策プログラムの存在のほか、他の候補者にないメランション候補の特徴に注目したい。LFIには経済、社会保障、エコロジー、人権、差別、治安、教育、文化など様々な分野で法案を練り、社会・市民運動と闘いを共有して知識と経験を積んだ、すぐにでも政府を作れる有能な人材が大勢いて、彼らが一体となって「共同の未来」のために全力を傾けている点である。そして、エコロジストや共産党などこれまで共闘を組んだ党(社会党以外)に向けて、プログラムに基づいた新たな共闘を呼びかけている。
プログラムの一貫性に加えて、メランションとLFIの強固さも指摘できる。「反ユダヤ主義」「テロ擁護」などと激しく中傷されながらも、国際法違反とジェノサイドを告発し続けて信念を曲げない姿勢は、この国現存の他の政治家や政党にほとんど見られない資質だと評価されている。そして、メランションの政治経験、歴史・文学・文化の知識と教養、社会科学と哲学、海洋や宇宙、デジタルなど未来に向かう科学研究への旺盛な知的好奇心も、中身のないコミュニケーション言語や官僚言語しか使えない政治家たちの中で抜きん出ている。数多くのスピーチの中で彼はユーモアを忘れず、人の心に届く言葉を発し、最後には詩人や歴史的人物の言葉が引用される。メランションの選挙キャンペーンは、混乱に戸惑い生活難に苦しむ人々に別の世界が可能だというビジョンを提供し、希望を灯せるのではないだろうか。
2026.5.10 飛幡祐規(たかはたゆうき)
参照:
コラム第105回 2026年4月21日掲載 反レイシズムと新しいフランス:https://www.labornetjp2.org/news/pari105/
コラム第104回 2026年3月19日掲載 フランス反ファシズムの反撃と市町村選挙第一回投票:https://www.labornetjp2.org/news/pari104/
コラム第103回 2026年2月22日掲載 フランス:マクロン政権のトランプ化、ファシズムへの転落危機:https://www.labornetjp2.org/news/pari103/
ニュース フランス:4月4日、パリ郊外サン・ドニ市の反レイシズム大集会 https://www.labornetjp2.org/news/260404pari/

