
第105回・2026年4月21日掲載


移民系市長・市議の増加
フランスの市町村選挙は3月22日に第2回投票を終えて、第1回投票で既に表れていた傾向が全体的に確認された。極右の国民連合RNはマルセイユやトゥーロンなど大都市では勝てなかったが、とりわけ北部と地中海岸で浸透を広げた。第五共和政史上、大多数の市長が選出されてきた保守党LRと社会党は数ではいまだ優位だが、多くの自治体を失った。棄権率は2回とも約43%で、前回コロナ危機の2000年を除くと第五共和政始まって以来最も高かった。市町村選挙は1980年代までは投票率が7-8割に達し、市民の関心が高いとされてきたが、身近な市政に対してさえ有権者の幻滅や諦め、無関心が増大したようだ。もっとも人口が少ない自治体ではリストが一つだけのところが多く(約7割の市町村)、政治色がはっきりしない無所属のリストも多い(リスト数約5万の8割以上)。
その中で「服従しないフランス」LFI(急進左翼)、彼らと他の左派や市民連合との共闘リストは、棄権率が高い低所得層地区の住民や若い層の票を多く集めて躍進した。創立後10年で400の市議会に1000人近くのLFIの市議が選出されたことは、これまで主に大都市とその郊外に有権者が集中していたLFIの地方への浸透を表している。第1回投票まで他の左翼政党(社会党、緑の党、サン・ドニ県を除く共産党)はLFIとの共闘を拒否し、時には攻撃もしたが、ナント(それまで社会党市長)、リヨン、トゥール、グルノーブル(それまで緑の党市長)は第2回投票でLFIと共闘して左翼市政を確保できた。一方、ブレスト、クレルモン=フェラン、ブザンソンでは社会党や緑の党の前市長がLFIと共闘しても勝てなかったが、それは市政の疲弊(クレルモン=フェランは80年来社会党)や、保守層有権者(極右含む)の動員の増加によると分析できる。トゥールーズやリモージュなど第1回投票で左翼のトップ候補がLFIで、他の左翼政党との共闘が組まれた都市では、LFIに対して保守、極右、企業組合によるフェイクニュースに基づく激しい攻撃(トゥールーズでは外国からのサイバー攻撃も)が起きて、社会党の一部の指導者もLFI攻撃に加わって保守への投票を呼びかけた。
急進左翼LFI(独自か共闘リスト)の進出が著しいのは大都市とその郊外で、第1回投票で当選したサン・ドニ=ピエルフィット市のバリ・バガヨコに加え、第2回投票で当選した北部のルーべ市、パリ近郊サン・ドニ県のラ・クルヌーヴ、ヴァル・ドワーズ県のサルセル、リヨン郊外のヴェニシュー、ヴォー・アン・ブランなどが象徴的だ。多くは歴史的に共産党・社会党が市政を司ってきた自治体で、変革を目指す新たな勢力として登場した。注目すべきは、LFIと左翼共闘リストの健闘によって今回、初めて数多くの移民系市民の市長と市議が当選したことだ。
2000年以来何度か強化されたパリテ法(男女同数制の促進)以来、マイノリティだった女性議員や市長の割合は次第に増えたが、移民系(露骨に言うとアラブ系と黒人)の議員や市長は、移民を受け入れた長い歴史があるにもかかわらず、例外にとどまっていた。また、移民系若者に対する警察の暴力や様々な差別が続く中で、従来の左翼政党は国政においても市政でも明確な反レイシズム対策をとってこなかった。そして30〜40年来、ネオリベ政策に基づくジェントリフィケーションが左右双方の為政者によって進められ、移民系の人が多い低所得層の居住地区(社会住宅団地など)は国政・市政から見捨てられた(あるいは暴力と麻薬取引、イスラム原理主義など悪い面ばかり強調された)。
政治離れが進み棄権率が高いこれら民衆地区に向けて、LFIは住民の現実と要望に基づいた政策プログラム(住居費削減、公共サービス再導入、レイシズムと極右化に対する措置など)を掲げた。選挙区の多くの住民を代弁できる移民系の候補を増やし、地域の民主主義(ミュニシパリズム)の促進をめざしている。こうして、民衆地区から多くの移民系の市議と市長が初めて登場したのだ。
レイシズムの怒濤と反レイシズムの反撃
前回のコラムですでに述べたように、イルドフランス地方でパリに次ぐ人口の大都市サン・ドニ=ピエルフィットの市長に当選したバリ・バガヨコは、当選直後からフェイクニュースに基づく様々な差別的中傷を浴びせられた。第2回投票後もメディアはバガヨコに対する中傷と差別的なコメントを流し続け、当選した他の移民系の市長や市議たちに対しても同様のレイシズムが表現された。最初のショッキングな事象は、サン・ドニ市(大聖堂に歴代の王の墓がある)について、この町で教員だった共産党の詩人の表現「死んだ王と生き生きとした民衆の町」をバガヨコが引用したところ、極右が彼が「黒人の町」と言ったとSNSで流布したことだ。主要メディアは確かめもせずにこのフェイクニュースに飛びつき、民間24時間テレビ局BFMのジャーナリストは「なぜ黒人の町と言ったのか?」とバガヨコに問いただした。別のメディアは、前市長(社会党)が流した「バガヨコは麻薬のディーラーを使って票を集めている」というフェイクニュースをもとに、「あなたは誰の手中にあるのか?」と彼に訊ねた。これまで、当選した市長に対してこれほど侮蔑的・差別的な質問が高飛車に投げつけられたことはない。


2017年以来、極右の資本家ボロレのメディアの一つとして差別発言を四六時中流布してきた24時間テレビ局C NEWSのトーク番組では、猿や「部族の男首長」に黒人を結びつける19世紀以来のレイシズムまで噴き出た。そして極右系メディアに限らず、多くのメディアのジャーナリストの言葉や質問の仕方にはレイシズムに加え、移民系市民をディーラーやごろつきと見なす植民地主義、市政を行う権利は従来どおり支配的ブルジョワだけにあると考える階級的蔑視が表されていた。
2週間以上にわたって怒涛のごとくメディアを覆ったこの破廉恥なレイシズム洪水に、多くの市民は愕然として衝撃を受け、移民系フランス人は深く傷つき、憤慨した。LFIや左派の市民たちはむろん、レイシスト発言とそれを流布したメディアに対して即座に抗議したが、政府の反応はひどく遅かった。選挙後に再開した国会で問い詰められた後に、ようやく首相と反差別担当大臣はバガヨコ市長への支持を表明した(10日以上経ってから)。差別主義者のゼムールが道で反対者に罵られた時、すぐに電話して慰めたマクロン大統領は長い間無言だったが、4月14日、サン・ドニ市でのコンサートへの公式参列の際に面会したバガヨコ市長に答えて、差別発言を諌めるとようやく発言した。共和国の理念(1789年制定の人間と市民の権利の宣言「人間は、生まれながらにして自由であり、権利において平等である」)の表明がこれほど遅れるとは、問題である。社会党や緑の党の反応も一部を除くと鈍かったが、今回のレイシズムの公空間での発露は、フランス社会に内包されてきたレイシズムと植民地主義の根深さを表しているようだ。

迎えられたリマ・ハサン(レピュブリック広場)
バガヨコ市長は侮蔑・差別的な質問に対して冷静に、的確に答え続けた。そして、ひどい差別発言を流した極右系テレビ局C NEWS を訴え、サン=ドニ市庁舎前でレイシズムと全ての差別に反対する大集会を呼びかけた。40の団体が賛同し、4月4日土曜日、市庁舎とフランス歴代の王の墓がある大聖堂前の広場とそこに続く道は、大勢(ゆうに1万人以上)の人波に埋められた。サン・ドニ市民に加え、パリや近郊、ルーべなどからも人々は集まった(メトロ13号線の停電のせいで、パリから行った人々は途中から郊外急行に乗り換えたり、徒歩で赴いたりした)。市議や市民のスピーチにたくさんの若者が元気に拍手、コール、歓声で応え、「私たちはみんな反ファシストだ」というイタリア語のスローガンを一緒に叫んだ。
最後にスピーチしたバガヨコ市長は、若い世代が政治意識をもって反レイシズム運動を進めていると賞賛し、これまでこの闘いを担ってきた親や祖父母の世代の人々に感謝を捧げ、何度もレジスタンス(抵抗)を呼びかけた。そして、今日が極右とレイシズムに対する新たな闘いの出発点であると述べた。具体的な措置を進めるために、自治体の議員のネットワークを作り、首相にも反レイシズムの具体的な政策を実施するように言いに行くと語った。「市民、子どもたちにとって平等が空約束ではなくて現実となるように、反レイシズム・反極右の闘いを勝ち取ろう」。大勢が一緒にやればその闘いに勝てるはずだ、「恐怖を抱かず、誇りをもって進もう」と呼びかけた。フランス共和国市民の普遍的な意思、「自由、平等、友愛」を実現しようと。
LFIの議員や市議たちも大勢参加していた。ジャン=リュック・メランションはインタビューに答えて、これはフランス共和国の歴史的瞬間だと述べた。フランスの民衆の統一を保つために必要不可欠な変革が、この歴史的な場所で起きた。移民の子孫たちが市民として重要なポストについた、新しいフランスがここにある、と。実際この日、多くの移民系市長と市議の当選を喜び、レイシズムにノンを突きつけるために出向いた老若男女は、様々なルーツを持つ移民系フランス人が共和国の構成員をなす「新しいフランス」の存在を誇らかに示したのだ。次の反レイシズム・反ファシズムデモは5月3日に催される。
欧州議会議員リマ・ハサンに対する権力濫用と危険な「反ユダヤ主義と闘う」法案


4月2日、2月の極右青年ドゥランク事件の情報操作を思わせる重大な事件が起きた。パレスチナ難民キャンプ出身の欧州議会議員のリマ・ハサン(LFI)が呼び出しに応じて警察に赴いたら拘留され、所持品に麻薬があったという情報(フェイクニュースだと後に判明)が漏れて、それがメディアで大々的に流布されたのだ。国際法の専門家としてその観点からパレスチナ人の権利を主張し、ネタニヤフ政権の国際法蹂躙、アパルトヘイト、ジェノサイドを批判するリマ・ハサンは、これまで何度も「テロリズム擁護・賞賛」の名目でシオニスト団体や政治家から訴えられ、警察から聴取されてきた。2024年以降16件の訴えのうち13件を司法は取り消したが、聴取で拘留されたことはそれまでなかった。今回、彼女がフランスでも合法的に入手できる医療用合成カンナビノイドCBDを持っていたことから、警察はそれを口実に薬品の分析と彼女の尿検査まで行った。
問題は第一に、どの市民についても取り調べ中にその内容は公表されないはずなのに、リマに関しては情報が漏れたばかりでなく、それが粗雑なフェイクニュースだったことだ(おそらく現場の警官から虚偽情報の漏洩)。また、よほどの理由がない限り国会議員と欧州議員を拘留することはできないのに、数日前のツイートを「現行犯」という解釈で拘留したこと自体が前代未聞で、行政と司法による権力濫用である。そして、極右に限らずほとんど全てのメディアがその漏洩情報を、真偽を確かめずに真実のごとく報道したのは、ジャーナリズムの職業倫理に欠ける大きな落ち度だ。
4月2日の夜遅く、ようやく拘留から解放されたリマ・ハサンは麻薬など持っていなかったと表明し、翌日の午後に記者会見を開いた(翌日3日の午前中には、さらに2件の「テロリズム擁護」の訴えで、リマは弁護士と共に再び警察に赴いた)。4月2日に検察局はリマ・ハサンの所持品から「CBDと、麻薬と思われる合成化学物質が見つかった」という虚偽の情報を流していた。その合成化学物質は、性欲増加効果があるので乱交パーティーの参加者などが使うドラッグ(違法)で、リマが持っていたストレス削減や不眠防止効果があるCBD(合成ハーブ、合法)とは全く逆の性質のものだ。リマが麻薬常用者だと思わせるような情報を流した検察局もひどいが、自ら警察に赴いた人物が麻薬を持って行くなどありえないと考えればすぐわかるだろうに、その陳腐な情報に疑問を抱かず、事実と決めつけて報道したほとんど全てのメディア(AFPやル・モンドも)の態度も醜悪である。それは、彼らがリマ・ハサンに対してネガティヴな先入観を持っていて、欧州議員としても個人としても彼女の人格をまったく尊重していないことを証明している。そこにはおそらく、パレスチナ人、アラブ人女性のリマに対するレイシズム、スキャンダルを嬉々として煽る低俗さも表れているだろう。
リマとLFIはこの異常なメディアの態度(リマ・ハサンの尊厳と名誉を傷つける虚偽報道)をメディアの表現の自由や多様性、倫理管理をするARCOMという機関に訴え、また内務省と法務省に行政監査を要請した。警察による情報漏洩は明らかだが、数日後に司法省のスポークスマンが記者たちに情報を流したという記事がカナール・アンシェネ紙に載ったため、リマはその人物も訴えた。その後「合成化学物質」の分析結果が発表され、麻薬の成分などなかったため、検察局は4月9日に麻薬所有の件を取り下げた。ところが実は、検察局は4月4日に分析結果を受け取りながらすぐ動かなかったことが4月16日、オンライン新聞メディアパルトの記事で判明した。その間、メディアはリマが麻薬を所持していたと報道し続け、ほとんどのメディアは検察局の取り下げ以後も虚偽情報の修正をせず、虚偽情報を報道した謝罪もしなかった。
内務省と法務省も同様で、これまでリマに対する16件の訴えのうち13件は取り下げられたが、今回の異常な拘留や情報漏洩についての謝罪はない。その上4月16日、オンライン新聞のメディアパルトのもう一つの記事で、内務省が不法に、今年1月1日以降のリマ・ハサンの行動を、携帯電話のGPS情報やエールフランス、国鉄その他の機関や企業から入手して追跡していたことが暴露された。取り調べ中の情報漏洩と虚偽情報の捏造だけでも当局の行為は民主国家・法治国家にあるまじき犯罪だと思うが、野党の政治家の不法監視も行われていたのだ。
リマ・ハサンに対する権力濫用をとおして、2023年10.7以降のマクロン政権のパレスチナ支援市民に対する横暴が浮かび上がる。学生のアクションはことごとく弾圧され、多くの集会・デモ、講演会が禁止され、「テロリズム擁護・賞賛」の名目で大勢の労働組合員、研究者、市民、活動家が訴えられ、有罪を受けた人もいる。そしてこの4月、イスラエル国家や政策批判を反ユダヤ主義と定義し、パレスチナ支援の言説を「テロリズム擁護」として罰する法案(ヤダン法)が国会に提出された。2024年からこの法案は練られ、一度は国会の立法委員会で却下されたが、再度委員会にかけられ、マクロン与党に保守と極右が賛同して国会本会議で4月16日-17日に討議されることになった。国内・国外の数多くの研究者、人権団体、市民団体が法案の危険性を告発し、国連人権理事会の5人の特別報告者は、「言論の自由を侵害する危険があり反ユダヤ主義対策になりえない」と述べた声明をフランス政府に送った。
一方、この法案の危険性を理解した市民が国会のサイトで反対署名を始めたところ、2か月足らずで70万を超える署名が集まった。50万を超えた署名は国会の本会議で討議するという決まりにもかかわらず、国会議長は立法委員会にその決定を任せ、委員会の多数決で本会議の討議は却下された。署名は4月15日、707957人の時点で停止させられた。国会サイトで史上2番目の最多記録の署名に対して、ここでもマクロン与党の国会議長が権力を濫用して、数多くの市民の声を踏み躙ったのだ。
4月16日、国会近くに多くの市民が集まって抗議集会を開いた(それ以前にも抗議集会とデモが行われた)。国会ではLFIの議員がこの法案を阻止しようと準備していた。それに加えて市民の行動はめざましく、記録的な署名だけでなく、ヤダン法案に反対せよと国会議員にメールを送り続けた。その結果、法案に署名した議員(オランドなど)までいる社会党はしばらく前から、この法案に反対の立場を表明し、中道モデム党も引き下げるべきだと立場を変えた。そして、マクロン党は同日午後、法案の引き下げを決定した。ヤダン法案を引き継いで6月に政府が法案を提出すると言っているが、悪法の可決危機はひとまず遠のいた。
マクロン政権はパレスチナ国家を承認したが、10.7以来、ネタニヤフ政権とアメリカの中東における侵略とヘゲモニー掌握攻勢(戦争、ジェノサイド、アパルトヘイト、植民地化、領土拡大と資源確保)に加担しているのは明らかだ。国内でそれはパレスチナ支援の市民や議員の弾圧、言論・表現・研究の自由の侵害、移民系フランス人への差別政策という形で表れている。イスラエルとアメリカにきっぱり対抗し批判するスペインのサンチェス左翼政権と比べて、なんという不名誉、退廃、ていたらくだろうか。
2026.4.20 飛幡祐規(たかはたゆうき)
参照:
コラム第104回 2026年3月19日掲載 フランス反ファシズムの反撃と市町村選挙第一回投票:https://www.labornetjp2.org/news/pari104/
コラム第103回 2026年2月22日掲載 フランス:マクロン政権のトランプ化、ファシズムへの転落危機:https://www.labornetjp2.org/news/pari103/
ニュース フランス:4月4日、パリ郊外サン・ドニ市の反レイシズム大集会 https://www.labornetjp2.org/news/260404pari/

