堀切さとみ (映画祭実行委 『懲罰自転車』制作者)

 

 6月14日、国立で三多摩レイバー映画祭があった。会場は映像居酒屋「キノキュッヘ」。四回目になるこの日は、一橋大学・坂上香ゼミの学生作品を上映し、世代間を超えて交流することができた。ユニオンの人たちも多数参加し、レイバー(労働)映画祭らしい映画祭になった。





 将来を確保されたかにみえる東大卒の若者が、職場で苦しんで自死を遂げる。『東大生のためのワークルール入門』(監督:土屋トカチ)は電通の高橋まつりさんを筆頭に、大手企業で苦しみ抜いて亡くなった人たちの素顔を紹介する。「死ぬくらいなら辞めればいいのに」という疑問を抱く人もいるだろう。「学校でも職場でも、命を落とすくらいなら逃げる勇気を」というが、現実にはそれも難しい。息子を亡くした父親は「もう少し頑張れ」と悪気もなく背中を押してしまったことを悔やみ、涙を流す場面がつらかった。
 郵便局でも自殺や過労死は多く、家族は苦しみ続けている。そんな中で初上映した『懲罰自転車』(20分)は、自らが受けた懲罰体験をNHKに告発した永井さんが主人公。その後、東京中部ユニオンに入り団体交渉を重ね、働く者の尊厳を訴えた。永井さんは内部通報制度を利用した時、「高橋まつりさんでさえ、パワハラとは認められていない。ましてやアナタは元気じゃないですか」と言われたそうだ。ここにパワハラ問題の核心があるように思う。「心身を壊し命を差し出してしまう前に、いろんな人に話しかけて生きのびてほしい」というのが、永井さんのメッセージだ。

『懲罰自転車』の永井晃彦さん(右)と『東大生のためのワークルール入門』を制作した土屋トカチさん(左)

 学生の三作品は「父と娘の対話」「ビックイシュー販売員」「専門学校」がテーマで、どれも今の若者像を映し出していた。中でも、専門学校に通いながらコンビニで働くネパール人の映像が好評だった。20代の若者たちが、一生懸命コンビニで日本人とのコミュニケーションを学んでいる。ずっと日本に居たいと言ってくれている。「コンビニの外国人に話しかけてみたいと思った」「排斥なんてとんでもない。いてくれてありがとうだ」という感想が次々と。
 制作した後藤慧さんは『懲罰自転車』を観て「いい意味でイライラした」と言っていた。そう、学生にはもっと怒りを感受してほしい。そして映像制作を続けてほしいなあと思う。いつか苦しくなった時、自分を助けてくれることになるだろう。
 
 今回は二つの韓国映画『死守』に始まり『高空籠城600日』で終わった。初上映の『死守』には「すごいの観ちゃったな」という感想が漏れた。韓国の労働運動は、メディア運動と市民運動がくっついている。日本も近づきたいし、映画祭でその萌芽を作れた気もしている。

『高空籠城600日』の解説をする尾澤孝司さんと尾澤邦子さん




 長丁場だけど、皆さんよく付き合ってくださった。司会進行から映写、料理まで、すべてを切り盛りしたマスターの佐々木さん、受付担当の三多摩合同労組の皆さん。本当におつかれさまでした。

二次会も大盛り上がり


坂上香(一橋大学大学院社会学研究科客員准教授 ドキュメンタリー映画監督)
 11:00〜21:00近くまで、映像見て、食べて、話して、充実でした。何より、一橋の学生たちによる3作品を見てもらえて良かったです。アプローチは全く違えど、本日上映された他の4作品(韓国や日本企業の責任をめぐって闘う労働運動、郵便局員が主人公の懲罰自転車、土屋トカチさんの過労死をめぐる映像)とも繋がっていて、色々考えさせられました。被写体の方々が打ち上げにも残って、生の声を聞けたのもとてもよかった。おじさんおばさんの圧も含めて(笑)学生の1人が思わず「集会」と呼んだように、映画祭っぽくないアンダーグラウンド感?運動色?が、学生にとっても逆に刺激になったんじゃないかと(女子学生はおじけづいたのか、懇親会には不参加でしたが)。いずれにせよ異世代間交流、大事。