<評者:志真秀弘> 
毎木曜掲載・第433回(2026.4.30)

写真集『Underrated2025 vol.3』(TOMOKO BABA)

〈TOMOKO BABA〉の三冊目の写真集が、昨年12月に刊行された。
 2024年に刊行された第1集(2024年刊)から第2集を経て、この第3集へと視線は一貫している。現在の瞬間に生きている過小評価されみくびられた人々(Underrated)の姿を、カメラは巨大都市の夜に捉えている。写真集の写真は60年代に広がった森山大道に代表される「荒れた粒子、ブレとボケの白黒写真」の技法を引きついでいるとみえる。「アレ、ブレ、ボケ」の路上写真が受け入れられたのは当時の活気を捉えていたからだろう。それから、しかし半世紀以上たつ。かつて路上にあふれるようにみえていた学生と青年労働者のたたかいは影を潜めた。路上、ここに収録された写真が示すように夜のそこは、表情暗くそして当てもなくさまよう人びとの場所になってしまったように見える。

 BABAは黒を強調して、かつての「アレ、ブレ、ボケ」の方法を現代の空気感、閉塞感を切り取る手法へと発展させた。それは現在の路上を鮮やかに捉えたBABAは、だが闇をとらえようとしているだけではない。闇にさす光を、それが微かであってもとらえている。

 かつてパレスチナの詩人Refaat Alareer(リファアト・アルアリイール、2023年空爆により死亡)のことば〈もし私が死ななければならないなら、あなたは生きなければならない。私の物語を語るために〉を紹介してBABAは書いた。「生きることはとてつもなくシンドイけれど、この詩は確かに日本の路上に光を届けた。」今回の写真集にも “You must Live To Tell my story“ の横断幕を持つ人たちが写されている。(写真下)

 写真集の最後に写真を撮ることを継続することを静かに語った文章が収められている。

「憂鬱な通勤風景から解放されて早8ヶ月。月日の経つのは早いもの。開放感に浸れるのも期間限定。楽しい時はいつか終わってしまう。人付き合いが苦手な私も、生きていくために働かねばならない。過酷な現実が待っているかもしれないけれど、写真を撮ることだけは出来るかもしれない。日々刻々と過ぎ去る時を記録できるという点では、現在は誰もが平等だから。/2025年。今年も街には一見、笑顔が溢れているように見えて、実はそんなことはなかった。いろんなことがあり、いろんな人々がいた。決して幸せかどうかわからない、けれども私はそんな人々なぜか惹かれてしまう。理由はわからないけれど、どこかで繋がっているように思える。いつも道に迷ってしまうけれど、現実に刃を向けシャッターを押し続けてみようと思う。理解されないかもしれない。それでもいい。ザワザワとした思いを巡らせながらこれからも続けていければと思う。/戦後80年の今、息苦しい時代に写し撮られた路上写真。ほんの些細な記録かもしれないけれど、少しでも爪痕を残せたらと思った。/2025.11」

 「息苦しい時代」を生きる人びとと共に苦しみながら、BABAはカメラを手放さない。このきっぱりとした、そして詩のような文章は読むものを感動させる。それは、このドキュメントを貫く路上の人々への作者の共感、そして共苦の心を端的に示している。

 *写真集は頒価2500円、レイバーネットで取り扱い中です。お申し込みはこちらから。