

飛幡祐規(たかはたゆうき)
「服従しないフランスLFI」のジャン=リュック・メランションの2027年春の大統領選に向けた最初の政治集会は、6月7日(日曜)の午後に行われ、パリ北郊外サン=ドニ市庁舎前広場(聖堂前)は2万6000人もの人の波に埋まった。5月3日に出馬を表明した後、メランション候補の市民「推薦」数は30万を超えている。
(コラム「パリの窓から」106 https://www.labornetjp2.org/news/pari106/)
2016年12月以来、法・制度の変化や状況に応じてアップデートされてきた政策プログラム「共同の未来」の市民の意見・提案聴取は5月20日から始まり(1ヶ月間)、すでに13000集まった。
メランションのスピーチの前に、サン=ドニ市長のバリ・バガヨコ、ノーベル文学賞作家アニー・エルノー、2019年ゴンクール賞作家エリック・ヴュイヤールが話した。バガヨコ市長は4月4日、ここで反レイシズムの大集会を開き、やはり大勢の市民を集めた。
(コラム「パリの窓から」105 https://www.labornetjp2.org/news/pari105/)


メランションは「新しいフランス」の民衆を象徴するこの郊外の大都市、「死んだ王と生き生きした民衆の町」サン=ドニを選挙キャンペーンの出発点に選んだ。王国が(特定の)王に属さないのと同様に、共和国も大統領に属さない。共和国ではまさに民衆が主権者なのだと、歴史に刻まれたこの場所でメランションは強調したかったのだ。
アニー・エルノーはポール・エリュアール(サン=ドニで生まれた)の詩を最初と最後に読んだ。両親が庶民階層出身だったエルノーは、ノーベル文学賞を受けたとき、彼らが生きていたら誇りに思っただだろうと言われたが、両親は人民戦線の記憶に愛着を持っていたので、今日この場に自分が民衆と共にいることを誇りに思っただろうと述べた。また、「家父長制システムは人類の進歩に反する障害だ」というメランションの言葉を引用し、「共同の未来」は正義、尊厳、教育、文化に基づく政策プログラムだと語った。
続いてエリック・ヴュイヤール(史実を独特の文体で表現する作家で、革命勃発時を描いた『7月14日』という作品もある。2017年、ドイツの経済界のナチスへの融資を描いた作品でゴンクール賞受賞)も、大革命や1934年のファシズム危機の際、立ち上がったのは有力者やブルジョワではなく民衆だったと強調した。かつて「外国人(よそもの)」はブルターニュや南仏など地方からパリに働きにきた民衆であり、住居・物価の高騰によって民衆はパリから今郊外にいると指摘。そして今、再び「平等」の地平線に向けて「友愛」が存在する。「希望」は虚しい言葉ではないと結んだ。現代フランス文学の卓越した作家二人の言葉を政治集会で聞けるのは、とりわけ愛読者にはとても嬉しい。メランションは、自由の中でも精神の自由、文化・創作の自由の大切さを強調する。
第1回集会のスピーチはいつもより短めで、要点が展開された。まず、戦火の中で攻撃され苦しむ(大量に殺害される)民衆(ウクライナ、コンゴ、キューバ、イラン、レバノン、そしてもちろんパレスチナ)への連帯。メディアと文化(出版、映画・・)を独占的に支配する資本トラストを解体する意思。白人優位主義の新たな帝国主義(戦争とテクノロジー)で世界支配に乗り出した勢力に対抗する意思。ドゴールの第五共和政(1958年以降)とは全く別の社会となった「新しいフランス」に適する、民衆の尊厳と新たな権利を打ち立て、環境・生態系を守れる第六共和政をつくる意思。


各地から集まったLFIの活動家の中には、アルプス山村やスイス国境、マルセイユから来た人たちもいた。極右の言説が指導者層やメディアなど上の方から社会に流布され、差別主義の行為が黙認・助長されている今、自ら行動して別の社会をつくらなくてはならないと、多くの市民が実感しているようだ。メランションはまさに今が転換の契機であり、民衆を信じようと述べる。LFI以外の左派や中道の政治家たちが、メランションでは左派は決選投票で勝てないと口々に主張し、世論調査と主要メディアも、メランションが決勝戦に進んだとしても極右候補が大勝すると報道しているからだ。「私たちの国はレイシストやファシストではない。人々は文化と知性を愛する。だから勝てる。今いちど、私たちにはできる」とメランションは力強くスピーチを結んだ。
このサン=ドニでの政治集会について、珍しく主要メディアもかなり詳しく報道し、メランションとLFI運動の力強さとオーガナイズ力、若い層への吸引力に注目した。大統領選まで1年を切った現在、LFI以外の「左派統一候補」の予備選挙などを求める他の左派政党や自称候補者の中には、練られた政策プログラムや未来の社会ビジョンを持ち、大勢の活動家や市民を動員できる者がいないからだろう。メランションはこれまでの大統領選でも大きな広場を人波で埋め、ホログラムを使って3箇所同時集会を開くような創意工夫に満ちた政治集会を重ねてきた。世論調査でいつも過小評価されるが、いつも支持率も得票数も確実に増やしてきたので、自分をウサギとカメのカメにたとえている。メランション2027年のキャンペーンではみずタイプのポケモン「ゼニガメ」がマスコットに使われている。アニー・エルノーからゼニガメまでの「新しいフランス」キャンペーンの開始だ。
2026.6.8 飛幡祐規(たかはたゆうき)


