
<アリの一言>
20日、ソウル市内にある植民地歴史博物館(写真左)で、民族問題研究所のキム・ヨンファン(金英丸)対外協力室長(写真中央)に話を伺いました。訪韓のたびに韓国の情勢や課題について示唆を受けています。
今回はちょうどその前日(19日)に高市早苗首相とイ・ジェミョン(李在明)大統領の会談が韓国で行われたばかりでした(写真右)。李氏は高市政権にどう対処しようとしているのかを中心に聴きました。今回の会談では日本では報道されていない2つの重要なポイントがあったと教えられました。
第1は、中国との関係です。
金氏によれば、李氏が高市氏に最も強調したのは、東アジアの平和と安定のためには韓日中3カ国の緊密な協力関係を築くことが何よりも重要だということでした。
正当な主張です。ところが日本の報道は、「日韓のエネルギー安全保障の強化」「日韓関係の着実は発展」など、日韓関係の強調ばかりです。わずかに朝日新聞が「今月行われた米中首脳会談に関しても意見を交わしたという」と付け加えた程度でした。
日中関係は台湾有事発言で表面化したように高市政権の最大の弱点です。李氏の発言は高市氏に婉曲に姿勢を改めるよう進言したものともいえます。だから日本政府はその点はプレス発表せず、メディアも独自取材しようともしなかったのでしょう。。
第2は、長生炭鉱問題です。
日本の報道は「李氏は長生炭鉱で見つかった遺骨のDNA鑑定が近く始まることを歓迎した」(20日付京都新聞=共同)としています。まるで日本が始めるDNA鑑定を李氏が「歓迎した」かのようですが、事実は逆です。
金氏によれば、韓国外務省は首脳会談の前日(18日)、次のような公式発表を行いました。
「我が国政府は長生炭鉱で2025年8月と26年2月に発掘された遺骨のDNA鑑定に着手する計画である。韓日両国は、先日の韓日首脳会談(1月13日)においてDNA鑑定の推進に合意して以降、その具体的な手続きや方法について協議を重ねてきた。我が国政府は、DNA鑑定と身元確認が迅速に行われるよう、日本側と引き続き協力していく予定である」
長生炭鉱の遺骨収集は、日本の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(井上洋子代表理事)が中心にクラウドファンディングなどで資金を調達して行っています。同会の働きかけで韓国政府も取り組みを始めました。しかし日本政府は一貫して背を向けてきました。それが国会で追及され、石破茂前首相が検討を約束し、1月の首脳会談で高市氏も応じる考えを示したものです。
日本政府はいまだに消極的です。日本政府は鑑定後の返還・賠償などの問題が決着してDNA鑑定を行うべきだと主張(事実上の引き延ばし)。対して韓国政府は一刻も早く鑑定してまず身元を特定すべきだという主張。実務レベルでその食い違いを協議してきました。その結果、韓国政府の主張にそってDNA鑑定を急ぐことになりました。その実務者合意を首脳レベルで確認したのが19日の会談だったということです。
そもそも歴史改ざん主義者の高市氏が長生炭鉱問題で前向きな姿勢を示していることが意外ですが、その背景には「中国との関係が最悪な中で、韓国との関係まで悪化させるわけにいかない」(金氏)という政権基盤の危機感があります。
こうした事態の経過は日本の報道では分かりません。日本メディアの報道では出来事の背景、とりわけ国際情勢の真相は分からないというのが定説ですが、ソウルで市民運動をけん引している金氏に直接話を伺うと、そのことをあらためて痛感せざるをえませんでした。


