第108回 2026年1月10日(毎月10日)

 昨年1月のこのコラム欄(第98回)で、私は第二期トランプ政権の発足をめぐる思いを書いた。→ http://www.labornetjp.org/news/2025/0110ota 第二期政権発足前から彼は、カナダを米国51番目の州に/パナマ運河の支配権を取り戻す/デンマーク領グリーンランドを購入したい/メキシコ湾の呼び名をアメリカ湾に変える/犯罪の温床になっている中南米諸国からの移民を本国に送り返す――剥き出しの帝国主義者然とした物言いを続けていた。就任後、地図上の呼び名の変更や移民労働者の強制送還に限らず、国内では意図的に分裂・対立を煽り、かつ人権の確立に向けた長年の努力の成果を踏みにじる逆コース的な政策を乱発し続けている。

 第二期就任後の彼および政権の発言をすべて知る場にはいないが、対外的には、上に引いたような国家間関係を一方的に壊すことも躊躇わない言動の中に、ベネズエラへの言及はなかった(少なくとも、目立たなかった)とは思える。だが、トランプ第一期政権時代後期の一時期に国家安全保障担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンの『ジョン・ボルトン回顧録――トランプ大統領との453日』(朝日新聞出版、梅原季哉=監訳、2020年)を読めば、第一期(2017~2021年)の時代にすでに、例えば2018年8月15日にトランプがマドゥーロ政権に関して「やってしまえ」とボルトンに命令したように、同政権を打倒するためには軍事的選択を排除しない考えを陰に陽に明らかにしていたことがわかる。トランプはさらに「やってしまえ」と言った同じ場で、「もうこの指示を出すのも5度目だからな」とか「ベネズエラは実質的に米国の一部だから」とも語ったという。このトランプ発言は、ベネズエラ国家警備隊の軍事式典で演説中のマドゥーロ大統領の爆殺を図ったドローン作戦が失敗した10日後になされていることに関心をひかれる。ボルトンが、マドゥーロ政権の「脅威」を云々するこの個所で、突如「モンロー教義が提唱されて以来、米国は西半球における外部からの干渉と闘い続けてきた」と書き繋いでいる点も、後述する論点から見て、注目しておきたい。

 また、2018年12月、国民議会議長に選出された反マドゥーロ派のフアン・グアイドが、第二期目の大統領に就任しようとするマドゥーロを制止して、選挙は違憲だったから二期目は無効であり、大統領は不在となったから議会議長の自分が暫定大統領に就任すると宣言した。自分(米国)の損得勘定から見てひとの資質を見極めるに敏なトランプは、同時に、今日はその人物を腐し明日は誉めそやすという豹変を事も無げに為し得る人物でもある。グアイドには「必要な資質が備わっていない」ことを見抜き、「タフな男のマドゥーロ」に比して「こんな坊や(グアイド)は――全くの無名に過ぎない」とボルトンに漏らす。それでも、米政権総体としては、グアルド擁立作戦に全力を傾注する。だが、それが失敗に終わった2019年4月に至る過程を、ボルトンは悔しさを込めて描き出している。

 それは、トランプと朝鮮民主主義人民共和国の金正恩との会談(3つ目は、厳密には、会談とは言えない)が、シンガポール→ハノイ→板門店の3か所で行われた時期とも微妙に重なり合っている。キューバに近くカリブ海に面するベネズエラと、遠く東アジアの朝鮮を複眼で見据えながら(もちろん、米国の利害関係上の視点では、さらに多くの地域が同時に視野に入っていようが)、地球支配の全体戦略を練り続けている米国支配層の〈世界性〉とその〈力量〉は侮れるものではない、とやはり痛感せざるを得ない。

 さて、連続二期の大統領就任には失敗したトランプは、彼からすれば4年の空白期間を経て、2025年1月に二期目の大統領の座に就いた。本稿冒頭で触れた「抱負」はその際に語ったものである。すでに見たように、第一期期間中に行なったベネズエラ・マドゥーロ政権の転覆工作は、第二期では国務長官に就任し国家安全保障担当の大統領補佐官でもあるマルコ・ルビオに引き継がれて、初年度の一年間をかけて行われてきたようだ(“THE WALL STREET JOURNAL” 2025年10月21日)。キューバ系移民の息子であるルビオは、2011年から25年までフロリダ州選出の共和党所属の上院議員だった。トランプは第二期政権の発足に当たり、ルビオを初めフロリダ州出身者を首席補佐官と司法長官に任命し、彼らが共同してマドゥーロに対する圧力作戦を具体化するよう指令した。カリブ海域・ラテンアメリカとの物理的な接触の最前線にあるフロリダ州選出共和党員には、きわめて根強い反キューバ・反マドゥーロ感情がある。司法長官は、25年8月、マドゥーロに関する情報提供者への懸賞金を5000万ドル(75億6000万円)に引き上げた。そして証拠を明示することなく、マドゥーロが麻薬組織に協力している「麻薬テロリスト」であるとの宣伝を繰り広げた。ルビオはこの圧力作戦を「本土防衛と同等のものに位置付けている。マドゥーロは西半球における癌のような存在だからだ」と語っているという。 

 ボルトンが、2018年の事態を回顧しながらモンロー教義に触れた先の記述では、米国は「西半球」における外部からの干渉と闘い続けてきた、と記されていた。それをうけてか、2025年のいずれかの時点でルビオが練った反マドゥーロ戦略の中でも、マドゥーロは「西半球」の癌だと直截に語っている。2025年12月にトランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」では、「アメリカは西半球で優位的な存在でなければならない」「西半球以外の競争相手が、我々の半球に軍事拠点・港・重要インフラといった戦略的資産の配置・支配することを拒否する」と述べて、「西半球」が強調されている。

 冒頭で触れた一年前の私の文章は、「一昨年の2023年が『モンロー教義宣言から200周年』(1823年→2023年)であることを強く意識し、来年の2026年が『米国独立200周年』(1776年→2026年)であることを今深く意識している」と書いた。1823年、当時の米国大統領モンローが年次教書で明かした教義は、よく知られているように「アメリカ人のためのアメリカ」を謳った。実際には、これは、その後の米国政府の対外政策路線に照らして「米国人(北米人)のためのアメリカ」と読み替えなければならないことも、私たちは知っている。ここでいう「アメリカ」とは、北の先端=アラスカから、南端のパタゴニア地域までを覆いつくすアメリカ大陸全体を意味する。つまりこれは、「北米人のためのアメリカ大陸全体」という真の意図を隠し持つ表現だ。

 ラテンアメリカ全域において300年間続いてきたスペイン植民地主義からの解放・独立運動が高揚している19世紀初頭の時期を捉えて、1776年の「独立」から半世紀に満たない米国は、このモンロー教義を通して、

•西半球に位置するアメリカ大陸を、今後、欧州列強の植民地の対象と考えてはならないこと。また、米国としては欧州の事態に干渉する意図はないこと。
•欧州列強の政治体制を西半球に拡大する試みは、我々(北米)にとって平和と安全への脅威であること。
•米国は、すでにある欧州の植民地や属領に介入しないこと。

――を宣言したのであった。それは、スペインから独立したばかりのメキシコのテキサス併合(1845年)、メキシコに戦争を仕掛け敗戦国=メキシコから北半分の領土(ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニア、ネバダなど)の割譲(1848年)などの「実績」がすぐ生み出されることに繋がっていく。

 1904年、当時のセオドア・ルーズベルト米大統領はこのモンロー教義を拡張した。いわゆる「ルーズベルト補足」である。ワシントンが勢力圏と見做す地域、すなわち「西半球」で、各国の指導者が自国の統治を十分に行えない場合には、米国がそこに介入できると、としたのである。その後のキューバ、ニカラグア、ドミニカ共和国などへの介入は、これによって「正当化」された。

 そして2025年の「国家安全保障戦略」は、「ルーズベルト補足」に倣って「トランプ補足」を意図している。トランプ自身の驕り高ぶった表現によれば、「モンロー」にドナルド・トランプの「ド」を掛け合わせて「ドンロー教義」とも言うべき新戦略である。それによれば、西半球では、

•「米国に大量の移民を送ることを防止するのに十分な統治」を米国は維持する。
•「米国の勢力圏に含まれる政府は、南部カリブ海および東部太平洋での、麻薬船とされる船舶に対する攻撃作戦に協力することが求められる」。
•「我々は、敵対的な外国勢力の影響を西半球から排除し、同地域の重要資源を敵対的な外国勢力に掌握させない半球を望んでいる。また、西半球を米国の重要なサプライチェーンの基盤として維持したい」。そのため「重要な戦略拠点への継続的なアクセスを確保する」。

――ことを謳うのである。事実、ベネズエラの首都カラカスのマドゥーロの住処を攻撃し、100人前後と言われる死者を生み出し、大統領夫妻を米国に拉致して以降の、トランプおよび米国政府のさまざまな言葉遣いは、彼らが迷うことなく、この道を突き進んでいることを示している。曰く――今回の軍事行動は何か月にもわたる計画と予行演習の極致であり、米国にしかできない作戦だ。ベネズエラの再建に数年単位で関与していく。ベネズエラを米国政府が運営(run)する。我々が非常に儲かる方法でベネズエラを再建する。私には国際法は必要ない。「米国の主権や経済的な力と矛盾する過激な気候政策、グローバル・ガバナンス、イデオロギー的な計画を促進している」66の国際機関から脱退する……。

 米国内と国際関係をここまで分断し、対立を煽る政策を指示・実行し続けるトランプの任期は、あとちょうど3年間残っている。米国と世界全体が耐え続けるには、あまりに長い時間幅だと言わなければならない。

 ベネズエラ沖のカリブ海で、米国が「麻薬船」攻撃を目標とする軍事行動を開始したのは2025年9月末だった。中南米を担当する米南方軍の指揮を執るホルジー海軍大将は、この攻撃の「正当性」に疑問を持ち、軍事行動開始から「わずか」半月後の10月16日に辞任した。攻撃される船舶と麻薬密輸組織との関係や積荷の内容など、証拠を一切示すこともなく、「国際水域において殺傷力の高い兵器を使用することは国際海洋法に違反し、超法規的処刑に等しい」とする批判は、国際的なレベルで10月前半から行われており、メディアでも報道されていた。トランプは、カリブ海でのそんな軍事作戦を指示しているさなかの10月下旬に訪日した。就任したばかりの日本国初の女性首相は、首脳会談で「(トランプ氏の)平和貢献はノーベル平和賞に値するので、候補者として推薦する」と述べたという。その後両者は大統領専用ヘリに同乗し、あろうことか米海軍横須賀基地の原子力空母ジョージ・ワシントンに降り立った。首相はトランプのそばでぴょんぴょん飛び跳ねて「日米は共に帆を掲げ、自由で開かれた海を進む」と語った。演壇の前では多数の米国兵士たちが喝采し、背後には「力による平和」のスローガンが大きく掲げられていた。

 これら一連の事態をどこから見ても、私たちは、今まで見たこともないような、新しい事態に直面しているのだとわかる。この「耐え難さ」に対する批判と怒りを、どう解き放つのか。そのことが、ベネズエラの人びとにも、米国の人びとにも、日本の私たちにも、ひとしく問われている。

【付記】ベネズエラ情勢について論じるには、権威主義的な独裁体制であるマドゥーロ政権をどう捉えるかという重要な課題もあるというのが私の観点です。現在は、米国の新帝国主義的なふるまいを批判することこそが最重要課題だと思い、その課題は後に残していることをお断りいたします。