林田英明
「時は来た」と4月の自民党大会で声を高める高市早苗首相は、改憲の野望をあらわにした。ウソにウソを重ねて政権のトップに位置した彼女は日本をどこへ導くのか。

●自己本位の解散で圧勝
そもそも1月の記者会見で「高市早苗が内閣総理大臣でいいのかどうか、いま主権者たる国民の皆様に決めていただく」と意味不明の理由で自己本位の解散総選挙を断行した。すでに首相であるのに。結果、第1野党の立憲民主党が慌てて公明党と中道改革連合をつくった「5G(ファイブ爺)」に小選挙区で圧倒、全国の合計得票率が49%であるにもかかわらず全289議席の86%に当たる248議席を自民党は獲得した。もし完全比例代表制だったら、と毎日新聞が3月に試算してみると、得票率36.7%の自民党は173議席にとどまり、惨敗だった中道改革連合は18.2%だから85議席になった。だが、自民党が日本維新の会と連立合意した今、比例代表を減らし民意をすくわない「選挙制度改革」を進められようとしている。
選挙戦術も、いろいろな意味で巧みだった。自民党の公式ユーチューブで「私は逃げない」と訴えながら、NHKの党首討論は「手の症状が悪化した」と熱烈な支援者と握手した際に引っ張られたことを理由にドタキャン。しかし、その日の午後からの各地応援演説には出向いて手を振っている。3日前に『週刊文春』が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)とその関係者が高市氏のパーティー券を購入していたことを報じていた。
SNS戦略も功を奏し、こうして予算案を分科会なしで暴走する「高市1強国会」は、まともな議論もなく進められた。2011年7月の衆院復興特別委員会で菅直人首相(当時)が閣僚の代返を許すことに抗議した野党時代の高市氏は、自分がその場になると全閣僚を出席させて予算委員会を乗り切る。
●「落ちぶれた」武器輸出
武器輸出の規制をなくす「防衛装備移転三原則の運用見直し」では「日本経済の成長につながる」と3月の参院予算委で高市氏は強弁した。平和より一時的な経済利益の追求を疑問視する野党の問いにも聞く耳は持たない。有用性に疑問の残る中古の巡航ミサイル「トマホーク」を米国から爆買いし、同じく中古の「あぶくま型」護衛艦をフィリピンに輸出する。1976年に元首相の宮沢喜一外相(当時)が「わが国は兵器の輸出でカネを稼ぐほど落ちぶれていない」と全面禁輸を決めたことに対して「落ちぶれたと思わない。時代が変わった。防衛産業はいわば防衛力そのもの」と言い放って恥じない。戦争を平和に、軍事を防衛に反転させるウソはジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984年』そのものといえよう。異論を封殺する監視社会を完成させるためには、日本国国章損壊罪も必要だろう。スパイ防止法もなくてはならない。
●中国脅威論あおり軍拡
中国経済は低落し不動産も暴落、失業の多さから国民の不満が高まっているところに高市氏の数々の言動は、不満の矛先を日本に向けさせる効果を呼ぶ。同様に国民生活が年ごとに窮迫する日本に住む者にも、実質賃金が長年上がらない原因を解消する施策はなく、中国脅威論をあおって増税を進める。軍拡しているのだから当然である。すでに軍事費は2025年度にGDP(国内総生産)比2%を前倒しで達成した。つまりこれまでの倍、約10兆円の大盤振る舞い。一度、軍事に手を染めてしまったら企業はもう立ち戻ることは困難であり、その桁外れのうまみを手放す理性は失われる。武器を売ってもうける「死の商人」の国家に転落し、尊敬でなく恨みを買い、テロの対象になりかねない。世界における軍事費ランキングで日本は9~10位ながら米中露に次ぐ4位に上がる時も近いだろう。防衛特別法人税が4月から企業に課され、法人税額に一定割合(4%)が付加された。所得税には税額の1%が2027年1月から上がるが、復興特別所得税を1%下げて見かけの負担額が変わらないようにし、同税の課税期間を2047年まで延ばす〝ステルス増税〟という姑息な手を使っている。たばこ税は4月から段階的に増税されている。赤字国債も増えざるを得ないのではないか。
かように軍事力がこれまで十分にありながら「戦力がないと他国から攻められた時に抵抗できない」と漠然とした不安のまま改憲にくみする若者は拡大再生産している。物事を深く論理的に考えないような国家教育を多感な時期に施され、企業の利益に役立つ従順さを求められてきたのだから当然であろう。他国から侵略されたら抵抗できないのではなく、個別的自衛権で戦えることは国連憲章で認められている。そのうえで、はたして日本の進むべき道を考えた場合、「こちらからは攻撃することはありません」という憲法9条という最強の「武器」を捨て、集団的自衛権に乗っかって他国の戦争に巻き込まれるのは下の下の愚策。しかし高市氏は、その旗を振っているのだ。
不戦と非核を柱にした安全保障を考えるのが喫緊ではないのか。犯罪に対処する警察は必要でも軍隊はどうだろう。世界には常備軍を持たない国は30以上もある。軍事費を教育や福祉、環境保全に回すことで幸福度が高い暮らしをしているコスタリカのような国が現実にあることを学びたい。逆に言えば、とめどない軍事費のために何を失っているか正しく知れば、答えはおのずと知れる。あすが見えない生活を一時的に忘れさせるような「日本スゴイ!」の情報は、誰が意図的に流しているか想像してみるのもいいだろう。
●「核」を持つための原発
何度も戦争シミュレーションした結果として米国は中国に勝てないことをヘグセス国防長官が2025年に明言している。15発の極超音速ミサイルが米空母艦隊を沈めてしまう。紛争開始から20分での決着。米国は中国と共存し、世界支配の折り合いをつけるのが得策で、なんなら日本が代わりに前面に立ってもらおうか、と考えて不思議ではない。現代の戦争はミサイルとドローンを抜きに考えるわけにはいかない。戦争になった時点でエネルギーや食料を自給できない日本が生き残るためには、世界ができるだけ平和でなければならない。
原発に関してはどうか。2013年6月、神戸市での講演で高市氏は「福島第1原発事故によって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら活用するしかない」と驚くべき発言をし、その後、自民党福島県連の抗議もあって撤回と謝罪に追い込まれたが本心はどうだろう。彼女にとって、今も廃炉作業や再稼働した原発の定期検査で被ばくする作業員の姿は目に入らないし、彼らの健康など一度として気にかけることはない。内部被ばくを恐れて避難している人たちの心情に思いをはせることもないのは、核兵器を持つための手段として原発を動かしているからである。
絶対安定多数を上回る盤石な体制を築いた高市氏。与党に有利な選挙制度を利したことは疑い得ないが、なぜ相対的支持をこれほど得たかの一番の理由は、その「陽キャ」にあるだろう。前首相の石破茂氏が「陰キャ」だったために、よけい際立った。トランプ米大統領に抱きつき、原子力空母の上で跳ね回り、ホワイトハウス内では歌い踊った。日韓首脳会談ではドラムセッションに興じている。
鬱屈した社会を変えてくれると勘違いして投票した人は世代が若くなるにつれて多かった。今もマスコミ各社の支持率は50~60%台と高い。決して高市氏が物価高やインフレを食い止め庶民の生活苦を救うスーパーウーマンではなく、逆に突っ走る暴れ馬だったと誰の目にも明らかになった時に「こんなはずでは」と自省しても遅い。小泉純一郎首相の快活な物言いに酔ううちに経済格差が広がった構造改革を、忘れっぽい日本人は少し思い出したほうがよい。彼は「格差の拡大は確認されない」と言い続け、それが難しい段階に至って「格差が出るのは別に悪いこととは思っていない」と開き直った。非正規雇用を労働現場に広げた責任者は誰なのか。20年前のことなので若者は知らないが、このような為政者は珍しくなく、私はその「資質」を高市氏に見いだす。
「消費減税は私の悲願」という1月の言葉も記憶に新しい。2月に自身の過去のコラムを全削除したのは「(消費税の)国民の負担は軽い」「消費税率引き上げは結果的には全て国民に還元される」と書いていたことを指摘された翌日。分かりやすい反応である。言葉のほうが軽い。選挙の争点つぶしに消費減税を持ち出したかに見える高市氏は「悲願」がいくつもあり、食料品の2年間ゼロより改憲などが先にあると思われる。
●自衛隊は米軍の傭兵に
米軍の力を背景に「現実主義」をかたる高市氏は昨年11月、「戦艦を使って、武力行使を伴うものであれば、どう考えても(日本が集団的自衛権を行使できる)存立危機事態になりうる」と台湾海峡における中国の動きを牽制したが、戦争観は第二次世界大戦時にとどまっているから「戦艦」から抜け切れていない。主要国では、もはや主砲を備えた戦艦は運用していないことを指摘されても、広辞苑を持ち出して「言い間違えではない」との答弁書を閣議決定した。誤謬を認めないこの答弁は些末なことかもしれないようでいて、弱さやミスを覆い隠す一つの例。大きな誤りがこれから起こっても、自分の責任を認めることはないだろう。
台湾有事をめぐって日米両国が現地に滞在する邦人や米国人の救出に退避作戦を共同で行う可能性に言及した1月のテレビ番組で「(日本と)共同で行動をとっている米軍が攻撃を受けた時、日本が何もせずに逃げ帰ると、日米同盟はつぶれる」と迷いなく語った。得意の「わが国として、その法的評価は控える」といった逃げ口上でなく、余計なことには饒舌である。たとえ日本が攻撃されていなくても中国との戦争があり得ることになるが、日米同盟維持のためならば進んで米軍の傭兵になるという意味を理解しているとは思えない。自衛隊員は、4月の自民党大会で国歌斉唱のリードをとって喜んでいる場合ではなかろう。無意味な戦闘で無駄死にさせようとしているかのように私の目には映る。死者が出た際は、表向き神妙な顔を見せて靖国神社で「尊い犠牲」とでも言いそうだ。
●イスラエルと似る日本


今年になってから戦争に関する映画を見る機会が多くなった。『ウォーフェア 戦地最前線』『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』『済州島四・三事件 ハラン』『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』で、さまざまな内容でありながら戦争の恐ろしさ、それを利用する者たちの醜さ、運命に翻弄される人たちは時代や場所が異なっても変わらない。
ここでは『ネタニヤフ調書』を取り上げよう。イスラエルのネタニヤフ首相は汚職で刑事起訴されながら、「息を吐くようにウソをついて」政権の座を維持する。詐欺、背任、贈収賄。首相本人や直系家族、側近や友人らの生々しい取り調べの様子が映し出されている。戦争を継続することで天寿を全うするかもしれないと思うと、パレスチナの殺されていく無辜の民がやるせない。
埼玉県秩父のイスラエル人、ダニー・ネフセタイさん(写真右)は「この映画はイスラエルでは上映禁止だけど、リベラル派はネットで見ている」と話す。イスラエルは戦争状態にあり、空襲警報のたびに地下に退避する生活が心身にダメージを与え、アルコールや薬物依存に苦しむ人が増えているという。戦争で、誰が得をするのか、誰が災難を受けるのか。だが現場の閉じられた中にいると大局的な視点は奪われる。敵を権力者から示されて、あおられるように戦争が常態化する。ダニーさんのイスラエルに住む家族はネタニヤフ首相の術中にはまっているように感じている。軍事力を背景に領土の拡張を目指すネタニヤフ首相率いるリクードは、3月の総選挙で第1党の座を占めた。相対的な民意は大きく右に傾いた。
民主主義国家のイスラエルと日本は似ているらしい。日本は、まるでイスラエルの後を追っているようなところもある。戦時中、朝鮮人を2等国民、中国人を3等国民と、あからさまに差別した国民意識が払拭されているとはいえない。高市氏も、そのほうが支配のうえで好都合だろう。彼女は「保守」を詐称する軍国主義者である。「大イスラエル主義」を掲げるリクード。一方、全文暗記していた両親から幼少期に教育勅語を叩き込まれた高市氏は「大日本帝国」に歴史を逆流させようとし、アジア太平洋戦争は自衛戦争だと信じて疑わない。

