堀切さとみ

成城郵便局(東京・世田谷区)

 軽微なミスをしただけで、自転車での配達を命じてきた日本郵便。猛暑の中フラフラになりながら、バイク配達と同じ量の郵便物を自転車で。「これは懲罰ではないのか?」

 多くの郵便配達員が苦しんできたこの問題を、昨年から『懲罰自転車』として新聞やテレビがとりあげるようになった。告発したのは成城郵便局員の永井晃彦さん(48)。永井さん自身、昨年8月に二週間の自転車配達を命じられた。およそ事故と呼べるようなものではない、バイクのサイドスタンドのかけ方が甘くて、停車中の車に接触したことが理由だった。
 郵便局員として働き始めて十年。季節の変化を感じながら、郵便物を届ける仕事が好きだった。雨の日も風の日も、お客さんのためだと思えば何でもないと思えた。しかし、35キロもある郵便物(自転車の積載量を超えている)を汗だくになって運びながら、フツフツと怒りがわいてきた。どうにも合点がいかない。いったい誰のための、何のための自転車配達なのか?

 自転車配達は全国の郵便局で行われてきた。その期間も基準もあいまいで、郵便局長の采配で決められる。他の郵便局では骨折して手術した配達員に、九ヶ月にわたって自転車配達を命じたという話も聞く。
 日本郵便の千田社長は昨年11月の会見で「社員に懲罰だと思われるようなことをやっていること自体、非常に問題だ」と発言している。にもかかわらず、成城郵便局は「これは懲罰ではない。安全教育だ」と居直っている。
 永井さんはユニオンに入って成城郵便局と二度に渡り団体交渉した。しかし、納得のいく回答はまったく得られなかった。

 永井さんは実状を伝えるチラシをつくり、成城郵便局前で局員や地域住民に配ることにした。
 5月15日、労組の仲間やОBが十名ほど早朝から集まる。その中には過労死した武蔵野郵便局員・飯島淳さんの父親もいた。郵便局の朝は早い。7時前に局長や部長が通勤するのを待ち受けて、永井さんはチラシを手渡す。日々一緒に働く局員たちが出社する。同僚が受け取ってくれると永井さんは嬉しそうだ。「ニュースで聞いたことがある」という通行人もいて、反応はまずまずだ。

 ビラ配りなんて、よくある光景かもしれない。でも現役で働いている永井さんにとっては、勇気を振り絞っての行動だった。会社を落とし込めるためではなく、誰もが働きやすい会社にしたいから。「黙ってて欲しくない。反応してほしい」というのが永井さんの思いだ。

 全逓という巨大な組合が潰されて久しい。それでも、立ち上がる労働者はいる。人間らしく生きるために。永井さんの闘いを見守りたい。

チラシを手渡す永井さん