児玉 繁信 <全労協全国一般 福山ユニオンたんぽぽ 執行委員>

1)5月の米中会談とは何だったのか?
5月の米中会談において習近平は、「トゥキュディデスの罠」に言及し米中関係の「建設的戦略的安定」を述べた。平たく言えば「覇権国米国が衰退しても中国は戦争の手段をとった覇権交代は望まない、罠に陥らない。米国と安定した関係を望む」ということだ。その上で「米国が台湾へ介入するなら中国は決して許さない」とはっきり述べたのである。また、イランの立場を明確に支持した。即ち、①米・イスラエルのイラン攻撃・戦争は国際法違反である、②イランは「核兵器を持たない」と表明しNPT(核不拡散防止条約)に加わった。NPT加盟国はウラン濃縮の権利を有する、③ホルムズ海峡は、国際海洋法条約に従いイランとオマーンが管理する権利を有する、と表明し、イランの立場にたった戦争終結を求めたのである。
一方、会談におけるトランプ最大の目的は、中国にイラン戦争終結の仲介を頼むことだったが、習近平は上述の原則的な主張を述べ拒否した。トランプは引き下がるしかなかった。その結果、合意文書は出なかった。
2)米国は力の低下を露呈した
これは何を意味するか? 米国の力の低下が、あからさまに露呈した。
イラン戦争で米軍は軍事的に敗北した。ホルムズ海峡を突破できないし、近寄れない。湾岸諸国の13もの米軍基地は破壊され、もはや機能しない。UAEを除く湾岸諸国は、米国の戦争再開に強く反対している。イラン戦争で軍事的に敗北し政治的にも後退した米国の姿を、世界中の政府と市民が見たのである。手段のなくなったトランプが、中国に戦争終結の仲介を頼んだがあっさり断られた。
イラン戦争の結果、明らかになったことはたくさんあるが、その一つは米国が「台湾有事」を起こしても、米軍は中国軍に敗けるということだ。イラン戦争において、米軍の超攻撃型「空母群+戦闘機+ミサイル」兵器体系は、イランの安価で自国防衛型「超音速ミサイル+大量ドローン」によって退けられた。「台湾有事」も同じだ。中国は東海岸に超音速ミサイルと大量のドローンを配備している。トランプも中国政府もイラン戦争の結果をあらためて確認し、「台湾有事」の軍事的評価を定めたのだ。
会談のなかでトランプは、「少なくとも自分の任期中は台湾に介入しない」と言明し、中国との関係改善を求めた。バイデン前政権が「中国による台湾への軍事介入は許さない、その場合は米国が介入する」と脅した姿勢からは大きく後退した。米中の政治的関係も大きく変化したということだ。
米国には現在と近い将来、「台湾有事」を引き起こす力はない。「米政府は台湾と140億ドル規模の兵器契約をしたが、その兵器群は中東に送られており、台湾に提供できる目途は立っていない。バルト三国への支払い済兵器も納入できていない。在日・在韓米軍からミサイルなどの装備・兵器を抽出して中東に送ったが、いつ補充できるかわからない。」(チャス・フリーマン、5月25日)
例えイラン戦争を再開しても、米軍は3週間分のミサイルしか準備できていないから、この期間で決定的な戦果をあげなければならないのだが、それは不可能だ。
3)高市政権は米中会談にどう対処したか?
5月17日Nikkeiアジアによると、2月以降、高市政権はトランプが北京へ行く前に東京を訪問するように、賄賂、懇願、インセンティブ、ロビー活動などで、ワシントンに執拗に申し入れた。トランプを招き入れ、お決まりの「中国の軍事的脅威」のシナリオに基づき、米中会談の前に台湾海峡や尖閣諸島に関する日本の強硬な立場を固めておく計画だった。
そのために高市政権は、かなりの贈り物を用意した。「①在日米軍への追加資金提供の申し出、②米国産農産物の輸入拡大、③150億ドル規模の武器購入リストを盛り込んだ。」(5月17日、James Wood 武杰士)。高市はこの一連のプロセスを主導し、過去最高の防衛費とトマホークミサイル・極超音速兵器の導入を推進し、「台湾有事」を日本の存亡をかけた危機へと昇華させようとしてきた。高市は、米中対立の枠組みを作り、日本の反中国路線に米国を引き込めると本気で信じているのだ。
しかし、トランプにとってはイラン戦争終結こそが最優先事項だ。中国に終結の仲介をしてもらいたかった。それゆえトランプは、東京をすっ飛ばして北京へ直行した。幸運なことに、日本政府の子供じみた計画は実を結ばなかったのである。
米政府は、中国と騒ぎを起こす時には日本を利用する。しかし、中国との間で結果を出す必要がある時は日本を無視する。日本政府よ!何度も経験してきただろう。それくらい気づけ!
高市政権と日本政府の中枢は、現在もなお20年、30年前の中国観、米中関係に基づいた外交政策に固執しており、最近の国際情勢の変化をまったくわかっていない「愚かな姿」を露呈したのである。
4)中国は「台湾有事」を起こさない
中国は、世界市場との経済関係なしには生きていけない。産業生産と貿易において世界一であり、順調に経済成長を続けているし今後も続けたい。「一帯一路」構想によるこれまでの海外投資と経済圏の拡大は、戦争となれば頓挫する。だから中国は台湾を軍事統一などしない。今軍事行動すれば、中国が失うものはあまりにも大きい。だから「建設的戦略的安定」を求めている。したがって、中国は武力で台湾を解放・統一する「台湾有事」を起こさない。
ただし「他国(アメリカ)が代理勢力を使い台湾に軍事介入した場合、中国は軍事的にこれを排除する権利を有する」という国家としての主権をはっきり主張してきた。それをとらえて、米政府も日本政府も「中国は台湾に武力介入する……」と曲解し煽ってきた。曲解した偽宣伝としてつくり上げてきたもの、それが「台湾有事」である。したがって、米国と日本が手を出さなければ「台湾有事」は起きない。
5)高市政権・日本政府は、中国の大きさを知らない
高市政権と日本政府もわかっていないもう一つの国際関係は、「中国の大きさ」を知らないことだ。そもそも知ろうとしない。
①「中国の大きさを知らない!」
2009年、中国と日本のGDP(ドル建て)は、5.3兆㌦でほぼ拮抗していた。2025年には中国GDPは20兆㌦超、日本は3,85兆㌦であり、5.2倍まで広がった。購買力平価でGDPを評価すれば、その差はさらに大きい。購買力平価は、各国のビッグマック価格で換算するのだそうだが、よりリアルな換算は1発の砲弾、1発のミサイルの各国での調達価格による換算だろう。日本は高価で性能の遅れた米国製の古いミサイル(トマホークなど)を買っている。軍事力の差も格段に開いた。高市政権、あるいは防衛省幹部は、 このような評価さえ怠り、ただ米国を戦争に巻き込めばいいと考えている。米国をイラン戦争に巻き込みたいイスラエルと同じだ。
②「日本は強くない!」
日本には中国専門家・知識人はたくさんいるが、中国の悪口をたくさん言うための専門家ばかりであり、しかもその仕入れた知識は20、30年前のものであって、役に立たない。新聞、TV、NHKの解説はすべて日本政府の主張を繰り返している。Youtubeで竹田恒泰や井川意高(元大王製紙会長)などが流している中国情報という名の悪口は、実態とはかけ離れている。これらの影響は、若い世代、中高年世代、更には労働組合や市民団体を含むあらゆる日本社会に広く及んでおり、ほとんどの人が現代中国の実態を知らない。
6)高市政権・日本政府の立場はどのように形成されてきたのか?
何十年もの間、日本政府・自民党の主流は、米軍基地を受け入れ、進んで反中国の先頭に立ち、中国との貿易戦争を繰り広げ、歴史教科書を書き換え、反中感情を煽ってきた。これは米国が指示・支持した政治路線であり、そのグループが日本の権力中枢を握ってきた。高市はその一人である。この過程で育ち、政府・自民党内でのし上がってきた。この成功体験を持つ右派と高市の思想は20~30年前に形成されており、今も変わっていない古いものだ。
ただし、かつて日本の政治において国際関係の変化に対応しようとした動きもあった。2009年12月の小沢一郎訪中団が国会議員143名とともに中国を訪問し、「米中等距離外交への転換」を打ち出した。今から見ればあれがチャンスだった。
しかし、自民党、政府官僚組織、他の野党らが米国の指示と支持を取り付け、よってたかってこれを押しつぶした。自民党内では中国とパイプをもつ政治家を引きずり下ろしてきた。官僚・外務省内でも中国とパイプを持つ者の排除が進み、アメリカ追従派(「アメリカンスクール」)が中枢を占めてきたのである。そのため、今の日本の権力、すなわち政党・政治家、官僚、メディアはこのグループが握っている。
7)高市政権は反中国政策を止めよ! それは戦争への道だ!
日本の対中政策は、米国が中国に対して日本とともに中国を牽制することを政策の前提としてきた。しかし、すでにそのような情勢はなくなった。「虎の威を借る狐」として振舞ってきたが、虎は老い歯が抜けている。
高市政権は、20年~30年前に作り上げた国内的な保守アジェンダにしたがって動いているのだが、このアジェンダためには中国との関係は悪い方がいい。その考えから高市政権は、①従来の武器輸出三原則の破棄、②安保三文書の改訂前倒し、③非核三原則の改訂・破棄、④憲法改正を推し進めている。大間違いだ。根拠は「抑止力至上主義」だが、抑止力はもっぱら米国に頼る、そのために米国に媚を売り、中国を叩く外交をやるというもの。日本の抑止力を強化して中国に対抗していく方針が、見え見えだ。
しかし、その先は破綻だ。新しい世界の変化を認識していない。高市政権は日本の墓穴を掘っているのである。どうしたって、アメリカ、ロシア、中国の軍事力には追いつきはしない。日本の経済力にはその力はない。
そもそも抑止力によって安全保障を確保する考えが間違っている。安全保障は相手の安全保障も認めたうえでの互恵主義以外には確保できない。昨年秋、高市首相は国会で「台湾有事の際には日本は参戦する」と述べ非難を浴びたが、いまだ撤回していない。中国はこの動きを「新軍国主義」と呼んでいる。そして日本からパンダがいなくなった。
一方で、日本にとって中国市場は、輸出市場、投資市場、インバウンドとして、極めて重要だ。いまや日本は国際環境の変化にあわせて外交をしなければならない。自民党内で権力を握ってきたアジェンダを、外交でも通そうとするのは現実に合わず、破綻しかない。米国におもねるのは、あるべき国の姿ではない。
8)高市政権はイラン戦争終結のために動け!
更に言えば、現代は米・イスラエルが国際法を破って戦争を始め、かつまた米国は国連組織を破壊している。そんな世界に一変した。そんななかにおいて、日本の憲法9条、すなわち「武力侵攻をしない、交戦権は放棄する」ことが今や大きなプラスになってきた。その方向に日本が活躍する場所がある。9条があったからこそ近隣諸国は、侵略戦争の歴史を反省しない日本であっても警戒せずにつき合ってくれた。しかし、軍事力、攻撃能力を持てば近隣諸国は当然、警戒し関係は壊れる。
日本にとって、平和な国際関係こそ生き残り活躍する条件だ。国連憲章や国際法を無視して戦争を始めるなど決して許してはならない。高市政権と日本政府は、米国の政策が間違っていることをはっきり指摘し、憲法9条と互恵主義による安全保障を宣言しなければならない。
イラン戦争を止めることは、日本と世界にとって緊急に必要なことだ。戦争が長びけば長引くほど経済のダメージは大きい。石油・ガス価格は上がりインフレとなり、金利も上がれば一気に金融恐慌。・世界恐慌を引き起こす。物価上昇は負担が大きいが、本当に恐ろしいのは金融恐慌だ。日本だけではない、アメリカも含む世界中にダメージを受ける。
トランプはイラン戦争に突入したものの、今や何とかして戦争を終結したい。しかし、手段がない。米国の信頼は落ちている。ヨーロッパ諸国はイラン戦争に反対はしないものの、各国とも米国に手を貸していない。トランプは戦略なく、見通しなく行動している。イラン戦争を終結するには、トランプの米国が手を引けばいいだけだ。
高市政権こそが間に入って交渉し、戦争を終結のために働かなくてはならない。それが果たすべき役割だ。国際社会で、米国は信頼を落とし中国は信頼を高めている。米国に追随すれば、日本へのダメージも大きい。このダメージを小さくするために動かなければならない。そこに日本政府の働く場所がある。カルビーがポテトチップ袋を白黒にしたのを咎めるのが、日本政府の仕事ではない。
高市政権は、イラン戦争終結せよ!と宣言し、終結のために動け! 米国が手を引けば戦争はすぐに終結する! 高市政権がやるべきは今のイラン戦争を早く止めることだ。(5月31日記:ミニコミ誌「インフォメーション」より転載)

