第103回・2026年2月22日掲載 

「反ファシズムの反撃」

極右青年の死亡事件と政治利用

 2026年2月12日、リヨンで極右活動家と反ファシストの若者たちの衝突があり、負傷した極右の青年が2日後に死亡した。後の取材・ビデオで、死亡した青年を含む武装した極右グループが、反ファシストや学生のグループ(非武装)を攻撃する目的で集まり、煙幕を最初に投げて衝突が始まったことがわかった。ところが、極右系24時間テレビが最初に、極右のフェミニスト(フェモナショナリズム)団体「ネメジス(古代ギリシアの復讐の女神ネメシスから)」の代表女性の虚偽の主張を流した。「自分たちの護衛の若者が、欧州議員リマ・ハサンの講演の際のLFI(「服従しないフランス」)の護衛に襲撃されてリンチを受けた」 というものだ。すると、主要メディアのすべて(公共放送含む)がこれを元に、「リマ・ハサンの講演会のそばで、カトリックの青年が反ファシストに叩きのめされ危篤」というナラティブを報道した。国民連合(RN)、保守、マクロン与党の議員、内務大臣やマクロン大統領もこれに追随し、青年が死亡した後は、国会の左派第一野党のLFIは暴力的だからだと、その死に責任があるかのごとく多くの政治家がコメントし 、リマ・ハサンやLFIを弾劾した。
 死亡した23歳の青年カンタン・ドゥランクは、以前から過激カトリック極右グループのメンバーだった。存続するフランス最古の極右運動アクション・フランセーズ(1899年創立、反ドレフュスつまり反ユダヤ主義、王党派)に所属した後、2025年にネオファシストの小グループを立ち上げ、同年5月にはヨーロッパ中から極右、ネオナチが集まるデモCM9に参加した。このデモにはナチや白人優位主義のスローガンが使われ、ヒットラーユーゲントが持っていたのと同じ太鼓隊が出動した。メディアの初期の報道で言われた「平和的なカトリック教徒」などではなく、正真正銘の極右活動家だ。
 事件について、極右ウォッチを続けてきたジャーナリストや独立メディアが調査と分析を重ねた結果、そしてカナール・アンシェネ紙が発表したビデオから、最初に黒づくめの極右グループが待ち構えていて攻撃したことがわかった。リマ・ハサンが講演のため欧州議会のあるストラスブールから列車でリヨンの政治学院に到着するより前のまだ日が暮れない時間帯に、政治学院から離れた場所での出来事だ。地面に倒れていたドゥランクは両グループが去った後に自力で起き上がり、そばにいた市民が病院に行くよう勧めたが拒み、リヨン7区から二つの河を隔てたリヨン5区まで歩いて他の仲間たちと落ちあった。そこで状態が悪化し、負傷から約1時間半後に入院した。

(https://contre-attaque.net/2026/02/17/le-canard-enchaine-confirme-notre-enquete-avec-une-autre-video-les-fascistes-ont-bien-organise-un-guet-apens-arme/)しかし、大半のメディアは、反ファシストのグループがドゥランクをリンチしたという表現を変えなかった。リヨン政治学院はリマ・ハサンの講演に向けて極右の攻撃の危険があると当局に前もって知らせたが、警察は政治学院のまわりの治安維持に出動しなかった。
 2月20日現在、検察は反ファシスト側の若者7人を起訴し、その中にネメジス側が名指しで告発したLFI議員のアシスタントが一人含まれている(殺人の罪状ではなく加担した疑い)。ネメジスはLFIなどの集会の会場の前で抗議するパフォーマンスをSNSで発信し、被害者を装う戦略が以前から指摘されているし、今回も最初の虚偽の発言を後から訂正したり、ドゥランクが入院した当日の夜にリヨンのバーで乾杯している映像を流したりしている。差別主義を掲げる極右の女性代表の言葉が、なぜ大々的に流布されるのだろうか。独立メディアの調査や現場に居合わせた地方新聞の記者が撮ったビデオがSNS上で公開されているのだから、予審判事は事件全体を調査するのが筋だろう。ところが、何日間もLFIが唯一の悪者のようにメディアで扱われ、バッシングされた結果、リマ・ハサンをはじめLFIの議員たちに対する中傷・脅迫(レイプや殺人)は増長され、十数箇所のLFI議員の事務所が攻撃され(落書き、破損)、2月18日にはLFIの本部に爆弾を仕掛けたと予報があり、警察が出動して全員が退去した。全て極右によるものだが、その攻撃を諌める内務大臣など政府、保守、与党からの発言は一切なく、LFIの責任を問うバッシングが続いている。

プラカード「レイシズムは殺す」

 そこには、3月15日と22日に投票が行われる市町村選挙を控え、2022年の大統領選の際に左派で断トツの投票率を得たジャン=リュック・メランション(22%弱、2番目の左派は緑の党4,6 %)と、国会の左翼第一野党で最も活発な急進左翼LFIを「悪魔化」して弱体化させようという意思(政権、極右と極右化した保守)が透けて見える。内務大臣はこれに先立ち、LFIを選挙で「極左翼」に分類した。選挙による政権掌握をめざし、暴力行動は拒むと常に主張してきたLFIは極左ではなく、国務院もこれまでそう定義してきた。しかし、マクロンは以前から、極右のRNと急進左翼のLFIを「同じ過激主義」と形容してきた。その実、抜き打ちに国会解散をして極右を総選挙で勝たせようとしたし、RNの差別的でイスラモフォビアの政策を次第に法案に取り入れた。そして、国会で富裕層や大企業への課税に与党・保守と一緒に反対するRNに対して、マクロン政権は限りなく強調的でRNの脱「悪魔化」を進めた。
 2023年10月7日以降、マクロン政権とフランスの主要メディアではイスラエルのネタニヤフ政権支持が顕著になった一方、停戦を求め、イスラエルによるパレスチナ人のジェノサイド、パレスチナの植民地化を批判するLFIは「ハマスの味方、反ユダヤ主義」などと、メディアで強烈なバッシングを受けてきた。歴史的に反ユダヤ主義が主要な要素だったRNを含む極右勢力は、イスラモフォビアとレイシズムを共有する極右ネタニヤフ政府支持になり、保守、与党は以後、RNを「共和国の一員」と認めてLFIを共和国から排除するようになった(LFI以外の左翼政党の指導部もLFIの排除に抗議しない)。欧米の支配的経済界・ブルジョワジーはこうして、経済政策的にも政治的にも極右を欧米「民主主義」に含め、急進左翼を敵に定めたのだとわかる。ポスト植民地主義・差別主義の帝国主義は今や、トランプのように民主主義や人権を謳うことさえ捨て去る弱肉強食の「捕食」時代に入り、価値観の逆転が大手をふるようになった(極右が共和主義で急進左翼が暴力的、反ファシストがファシストでテロリスト、反ユダヤ主義者がユダヤ人の味方で反レイシストがレイシスト・反ユダヤ主義者等々)。(フレデリック・ロルドン「協力者たち」ルモンド・ディプロマティークのブログhttps://blog.mondediplo.net/les-collaborateurs
 2月18日、RNの党首ジョルダン・バルデラは記者会見で、LFIに対して警戒線を設けなくてはならないと述べた。フレデリック・ロルドンが何年も前に予想したように、極右を阻むための防波堤「共和国の堰」はLFIに対する防波堤に逆転したのだ。保守「共和党」党首のルタイヨー前内務大臣もバルデラと同じくLFIを堰き止めろ、市町村選挙では一票も入れるなと発言した。選挙に向けてすでに多くの都市でLFIとの共闘を拒んだ社会党、緑の党、共産党の指導部も、極右青年の死についてマクロンと同じ「RNもLFIも同じ過激主義」というナラティブに加わった(セーヌ・サン=ドゥニ県の共産党など、LFIと共闘を結んだ市町村もあるが)。フランスで「左翼」を自称するブルジョワ層は、トランプのアメリカで起きていることに憤慨してファシズムを恐れるが、マクロン政権がトランプ化しているのが見えないようだ。選挙の結果と国会の無視(大統領と行政の権力肥大)、言論と学問、集会の自由の侵害、国際司法裁判所・国際刑事裁判所の決定の無視が実際に起きているのに、抗議する人は少数派でメディアで問題として大きく取り上げられない。今回も、調査中の死亡事件について首相や法務大臣がLFIの責任を語る異常さが指摘されない。アメリカではチャーリー・カーク(差別主義者でヨーロッパなら極右に分類される)の殺害後、「不適切発言」が処分され 、左派が非難され、トランプは排外主義と反トランス政策を強化した。フランスでも同様の自由の侵害と極右政策の強化が懸念される。

 極右グループによる暴力行為の増加とその不可視化

LFIのアヴィニヨンの議員、ラファエル・アルノー、「ジューヌ・ガルド」の創始者のひとり

 実はここ15年来、極右による暴力・殺害や、レイシズムとイスラモフォビアによる殺人が多発化している。しかし、メディアがほとんど取り上げず、政府は問題にしないどころか不可視化し、取り締まりが不十分なため、イスラム原理主義によるテロだけが脅威だという極右のナラティブに、とりわけ社会の上層は染まってしまったらしい。リヨンは中でも極右運動の中心地となり、2010年以後さまざまなファシスト・グループがバーやスポーツ訓練所など拠点を数か所設けて活動を広めた。アイデンティティ系、革命的国粋主義系、反動カトリック系、フーリガン系など異なるグループが解散・発足を繰り返して共存や協力関係をつくり、極右グループによる攻撃事件は15年間で102件に至る(ネットメディアRue89の調査)。本屋、バー、レストラン、共産党の事務所、左翼の集会やたまり場所などが襲撃され、労働組合員、左翼の若者、LGBT、移民系の人々が頻繁に狙われ、数多くの負傷者が出た。そのうち70%は、司法と警察の調査が行われなかったという。これまでいくつかのグループが内務省によって解散させられたが、極右グループのデモはほとんど禁止されず、左翼や環境運動家のデモで警察が参加者に対して使う催涙ガスやゴム弾銃、手榴弾が極右デモの参加者に対して使われることはない。
 そこで、ファシストたちから市民を守ろうと反ファシスト団体ができた。今回の事件で起訴された若者たちが属するとされている反ファシスト団体「ジューヌ・ガルド」は、2018年に発足した。ジューヌ・ガルドの原則は「自衛」、つまりファシストから攻撃を受ける左翼や移民系、LGBTの若者たちとその活動の自衛で、武器は持たない。創立者の一人ラファエル・アルノーは2024年、LFIの議員に当選した。ジューヌ・ガルドの働きのおかげで、リヨンで極右が集まる場所5か所が閉鎖されたが、ルタイヨー前内務大臣はこの団体を2025年6月に解散させた。ジューヌ・ガルド側は解散の撤回を国務院に申し立て、この2月に出るはずだった判決が延期されて、その翌日にドゥランク事件が起きた。
 フランス全体の政治的性格の暴力や殺害事件に視野を広げよう。歴史学者のニコラ・ルブールによると、1986年(テロリズムが刑法に明記された年)から現在まで、極右による殺害が59件あるのに対して極左によるものは6件(その1件が今回の事件)で、圧倒的に極右の暴力攻撃の方が多い。同じく1986年以降の政治的性格の暴力事件を調査した社会学者イザベル・ソミエは、人と動産に対する暴力行為を集計し、2017年までの5500件に対して、以降はすでに2300件と急激に増加したと述べる。そしてその9割が極右によるものだ。
 ところが、頻繁で多数の極右による殺害事件はほとんどニュースにならない。それは、警察によって(理由が不当な場合も多い)市民が殺される事件と同様に、被害者の多くが移民系フランス人や外国人のため、不可視化されるからだろう。今年1月6日、リヨン市の南の湖で死体が見つかったイスマエル・アーリ(20歳)の場合、友人を名乗る若者(21歳)によるレイシズムが動機の殺害の可能性が高いが、逮捕後に司法警察から容疑者の名前や詳細は一切家族に通知されず、メディアもほとんど取り上げなかった(いまだに情報は出てこない)。政府のコメントもなかった。前ルタイヨー内務大臣がイスラモフォビアと差別発言を繰り返し、アラブ系や黒人への攻撃が増加する中、昨年4月に南仏のモスクで22歳のマリ人アブバカール・シセが殺害された際も、大臣は家族にすぐ連絡しなかった。これらの殺人で犯人が極右や差別主義者の場合は、メディアも被害者と犯人について大きく取り上げず、極右政党が弾劾されることもないのだ。今回の政府や政治家たちの反応と国会での被害者に対する黙祷を見て、2022年3月19日に極右グループのメンバー2人に殺されたアルゼンチン人のラグビー選手、フェデリコ・マルティン・アランブルの家族と弁護士(訴訟は今年9月の予定)は、アランブルには政府も誰も弔辞を送らず、メディアも殺害を問題にしなかったと告発した。

ガザ封鎖を解きたいと市民の人道援助帆船に乗って捕獲され、イスラエルに拘留
された後にパリに戻ったリマ・ハサンと同船したフランス市民、パリ・レピュブリック広場

 実際、政府とメディアが騒ぐのは、加害者がイスラム原理主義者のケースだったが、今回それに被害者が極右という稀な事件が加わった。一方、加害者が極右で、国民連合RNやその前身の国民戦線FNと関係があった場合は、ほとんど問題にされない。ドゥランク事件のすぐ後の2月17日、シャトールー市でRNの活動家の男性(78歳)が警官に発砲し、手榴弾も投げて逮捕され、住居には機関銃や数多くの武器が見つかったという事件があったが、全くスキャンダルにならなかった。また、現役のRNの議員の一人は以前、武器を使った暴力事件で有罪判決を受けて実刑も受け、歴史修正・否認主義の本を扱う本屋も開いた差別主義者だが、ほとんど問題にされない。マリーヌ・ルペンやバルデラをはじめ、RNの議員や候補者の多くは極右グループと関係があり、SNSのグループなどで差別発言をする議員も多いが、それについてメディアで詰問されることはない。そういう状況が続いたからこそ、極右グループはますます図に乗って過激になり、襲撃や暴行が増えたのだろう。
 そしてなんと、2月21日に極右はリヨンでドゥランクを追悼するデモを企画し、ヨーロッパ中から2、3千人のネオナチやファシストがリヨンに集まる事態となった。企画した女性は中絶反対の極右、その夫はナチス協力の賛美が理由で2025年に解散させられたグループに所属し、2023年にはパレスチナについての講演会を襲撃して拘禁刑を受けたネオナチだ。ドゥランクが昨年5月に参加したCM9も来る。様々なファシスト・極右グループが集まり、移民系やLGBTを攻撃する危険があるため、リヨン市長は禁止を警察に要請し、ネットでは市民の反対署名が3万以上集まっている。たが、ニュ二エス内務大臣は治安の問題はないとしてデモを許可した。この日の報告は次のコラムで紹介するが、内務大臣にとっては極右グループは危険ではなく、反ファシスト運動の方が問題なのだ。

 こうしてフランスは信じがたいファシズム危機に面しているが、対抗勢力のLFIや反ファシズム、反レイシズムの市民たちは凛として立ち向かっている。LFIの選挙キャンペーンは活発で、各地の集会には大勢の市民が集まる。2月20日のユマニテ紙は、ノーベル文学賞作家のアニー・エルノー、ナチス研究の歴史家ヨアン・シャピュト、思想家フレデリック・ロルドンなど180名が署名した「今、反ファシズムを明言することが私たちの義務である」という声明を掲載した。
https://www.humanite.fr/en-debat/extreme-droite/affirmer-notre-antifascisme-le-devoir-du-moment
ヨアン・シャピュトは1930年代、ナチスは選挙に勝って政権を掌握したのではなく、一時期は選挙で後退して左派が強くなった際に、ブルジョワジー(マクロンと同様の「極中道」)がヒットラーを(操作できるとバカにして)総裁の地位を彼に提供したこと、ブルジョワジーは自分たちの利益と特権を温存するため常に、「人民戦線ではなくてヒットラーを選ぶ」ことを分析している。その著書のタイトルは『無責任な人々:誰がヒットラーに政権を掌握させたか』という。

Johann Chapoutot Les Irresponsables : qui a porté Hitler au pourvoir ? ed. Gallimard, 2025
参照:コラム第99回・2025年5月4日掲載 極右化、イスラモフォビアと闘うとき
http://www.labornetjp.org/news/2025/0504pari
 
2026.2.21 飛幡祐規(たかはたゆうき)