かわすみ かずみ

 フリージャーナリストの西谷文和さん(写真)は、2025年3月の万博工事費未払い問題の発覚当初から、被害者とともに行動してきた。きっかけは一本の電話だった。「未払いに遭っているパビリオン建設業者Aさんの話を聞いてほしい」。西谷さんは自宅にAさんを招き、話を聞いた。食べることもままならないほどの困窮状態を知り、日本維新の会が始めた万博のずさんさがこんな形で表れたと感じたという。

 3月のある日、西谷さんの事務所に被害者らが集まった。西谷さんの提案で被害者の会を結成。すぐに銀行口座を作り、カンパを募った。西谷さんは口座を作る際の規約の作成を手伝い、自らの出演番組などで被害者の実情を訴えた。これまでただひたすら働いてきた被害者がXのアカウントを作り、議員やジャーナリストに働きかけ、自らの現状を語り始めた。Xのアカウントには、心を寄せる人たちの暖かいコメントもあれば、心ない中傷もあった。

 在阪フリージャーナリストの幸田泉さんや元大阪日日新聞の木下功さんなど、心を寄せるジャーナリストが情報拡散や支援を行い、国会への追及を行う議員が何人も出てきた。「民民の問題」と逃げ続けてきた国や大阪府、万博協会を少しづつ追い詰めていく。

 大阪府市が「建設業者がいないから」と中小建設業者にチラシまで撒いて協力要請した海外パビリオン建設で、まさか未払いが出るとは思っていなかったという業者は多い。西谷さんは、「僕は十数年(報道を)やっていて、維新っていうのはウソをつく集団やと思ってるけど、被害者にしたら選挙で選ばれる市長や府知事は嘘つかないと思いますよね。本来府市、万博協会が急がせて、被害者らが働いた訳だから、保証すると思いますよね。その張本人が『民民の問題や』と逃げた訳です。被害者らにしたら、『恩を仇で返された。こんな理不尽なことがあるのか』と思ったと思いますよ」と昼夜問わず働いた被害者らの心情を代弁する。

GLイベンツ社の大罪

 中でも大きな被害を受けたのは、ルーマニア、ドイツ、マルタなど4つのパビリオンの元請けとなったGLイベンツ社の下請け業者だった。契約書を作らせず、工事に難癖をつけて工事費を払わないという悪質な犯罪行為を行い、その上守秘義務違反を盾に裁判まで起こしたGL社。被害者と支援者、ジャーナリストが、25年7月に2回、GLイベンツ社の大阪支社に抗議行動を行なった。GLイベンツの対応を目の前で見た西谷さんは、「何という無責任な会社」だと思った。1回目の抗議行動では、責任者の電話番号も会社の電話番号も教えられないと言い、苦情担当の男性が事務所内にはいることを拒否した。2回目の抗議行動では、社員が全員出て行ってしまい、被害者らが妨害しているかのように装った。2回の抗議行動のあと、GLイベンツ社は事務所を空にして、8月にはどこに行ったか分からなくなっていた。(写真右=GLイベンツ大阪支社)

広がらない世論、進まない救済

 9月初旬、ラジオフランスの西村カリン記者が来日。西谷さんは以前から西村記者と知り合いだったことから、未払い問題を伝え、取材を依頼した。西村記者は本国の企業がこんな悪質なことをしていると心を痛め、万博会場まで行き、被害者の声を熱心に聞いた。フランスでGLイベンツ社による未払いを記事化したが、広がらなかった。

 西谷さんは、「日本では国内メディアや私たちが騒いでも動きませんけど、アメリカやフランスから『何してんねん!』と言われると変わるかなと思ったので、西村さんルートでフランスの世論を動かしたいな、と思いました」、と当時を振り返る。

 しかし、フランスの世論も動かなかったし、日本政府も動かなかった。その理由として、GLイベンツ社と日本政府、フランス政府との癒着があるのではないかと西谷さんは考える。推測の域を出ないが、東京オリンピックの汚職により電通や周辺企業が逮捕され、入札に入れなくなったことで、GLイベンツ社が第2の電通として万博に関わったのではないかという見方がある。26年9月に愛知県で行われるアジア競技大会でも、GLイベンツ社が630億の随意契約で運営や設備を一手に引き受ける。GLイベンツ社は随意契約を取るために20億余りのスポンサー料をアジア競技大会の実行委員会に支払ったため、工事業者への支払いができなくなったという証言が、被害業者が起こした裁判で明らかになっている。

「お祭り資本主義」が見せたほころび

 26年3月、国会で日本共産党の辰巳孝太郎議員が万博工事費未払い問題について質問した。閉幕から半年経った今、新たに未払いが発覚している。中国政府が竣工手続きを終えていないことから、元請けが未払いになっていると辰巳議員は述べた。この背景について西谷さんは、「外国政府は普通の土地やと思って来てるからね。こんなとこ(ズブズブの土地)で予算が10億から20億にかさむやないか。だまされた」と思ったのではないかと推測する。元々カジノを作るために万博を行い、インフラさえできればいいという目先のことしか考えない万博だった。6ヶ月何もなければいいと思っていると西谷さんは言う。

 万博協会や大阪維新の会のずさんさを表すエピソードはたくさんある。西谷さんはそのいくつかを教えてくれた。25年3月、夢洲一区で工事中にメタンガスが爆発した。このことについて万博協会が海外のパビリオン建設国に伝えたのは2ヶ月後だった。万博で使われたEVバスはEVモータージャパンというベンチャー企業から、「国産車」として万博協会が買っている。しかしEVモータージャパンは中国から買って、料金箱だけをつけて横流ししたことが取材でわかっている。中国には優秀なEVバス企業があるのに、粗悪なものを買ってしまった万博協会の責任は大きい。ハンドルやブレーキが誤作動する不良品のEVバスは、開催中に柱に衝突する事故を起こした。150台のEVバスが、森ノ宮のバスの墓場で放置されている。こんなに不良品が多いEVバスを国はなぜ認可したのか? その背景にはバス議連に参加している西村康稔、片山さつきなどの議員の力があったのではないかと西谷さんは考える。運営や工事のずさんさに加え、万博やカジノに群がる議員の利権があるのは明らかだ。西谷さんは大きなイベントによって利権をお友達企業にぐるぐる回すやり方を「お祭り資本主義」と呼ぶ。小さなネジを作ること、大根を作ることなど真面目に働いてお金を稼ぐほうがいいと訴える。
 アホみたいな知事選や市長選に28億もかけている場合ではない。

衆院選・西谷さんはこう見る

 26年2月に行われた衆院選で、心ある議員らが超党派で提出した未払い被害者救済の法案は廃案になった。法案の提出に尽力した多くの議員が落選した。今回の衆院選について西谷さんは様々な角度から分析している。SNSを使った選挙がここ2〜3年で根付いてきた。しかし規制が伴っていない。今回の衆院選で高市氏の動画が1億6千万回回った。TBSテレビの報道特集によれば、1回動画を回すのに2〜10円かかるという。おそらく自民党は高市首相の動画を回すのに10億程度使っていると思われる。そこに切り取り職人が参加し動画を編集して流し、500万も儲けるそうだ。湯水のようにSNSを使えるものが選挙を制するという状況が、繰り返し起こっている。フェイスブックやXなどに強い規制をかけている諸外国との違いだ。

 西谷さんは今回の衆院選について、「自民党が勝ったのではない。立憲民主党が負けたのだ」という。中道改革連合と言いながら、比例名簿の上位を旧公明党が占め、原発容認、改憲も譲歩した。立憲民主党は言ってることと違うことをしている。立憲支持者の6割しか中道に入れていない状況を見るにつけ、野田佳彦、安住淳の責任は重いと、西谷さんはいう。立憲はちゃんとした立憲とだめな立憲に分かれるべきだと語気を強めた。

 大手メディアの報道も、「Aが勝つかBが勝つか」という報道ばかりが独り歩きし、圧勝の予測が出れば、投票に行っても無駄だとあきらめたり、勝ち馬に乗ろうとする有権者も出てくる。

 西谷さんは、有権者がしっかりと候補者の政策を見て、SNSに惑わされないことが大事だという。特に来年4月の統一地方選では、大阪はカジノに反対する候補者をしっかり見極めて投票すべきだと述べた。