永田浩三(ジャーナリスト)

 すごい映画を観た。ファーストカットからラストまで、息もつかせぬ92分。スイスでは4週間連続で興行成績1位に輝き、国際的な映画賞を総なめにする勢いだ。

 舞台はスイスの州立病院。主人公・看護師のフロリアは、休暇明けで遅番のシフトに入る。邦題は『ナースコール』だが、原題は『LATE SHIFT』、まさに遅番という意味だ。

 オープニングタイトルは、洗濯が終わったナースの制服が次々に流れてくる。大切ないのちを預かるかけがえのない仕事なのにもかかわらず、巨大組織のなかで、代替え可能な歯車であることを暗示している。

 フロリアのこの日最初の仕事は、年配の女性をベッドに寝かせる援助。女性が苦悶しながら便をもらすが、フロリアは動ずることなく、的確に声をかけ、からだを拭き、ベッドに運ぶ。相手の尊厳を保ちながら、冷静なサポートを行う。言うのは簡単だが、すべての相手にそれを貫徹するのは難しい。

 フロリアを演じるのは、いま注目の俳優レオニー・ベネシュ。役作りのために、州立病院でインターンシップを行っただけでなく、外科の看護師に同行して基本動作を体得した。監督・脚本のペトラ・フォルペも医療の現場に身を置き学んだ。こうした努力は、映画の隅々に反映され、観客は、看護師のフロリアの身になって体験をしているような気分にさせられる。病院の廊下の人々のすれ違いも圧巻だ。

 フロリアの日常は感情労働にあふれている。患者、家族からの暴言を浴び、ドクターは取り合ってくれない。研修に来た若者は気が利かない。フロリアは次々鳴らされるナースコールや問い合わせの電話の嵐の中で追い詰められていく。複雑な医療行為、患者への気遣い、安全管理・・・完璧だったはずなのに思わぬミスが起こる。

 映画はサスペンスの連続のフィクションだが、スイスでも日本においても、これは実際起きても不思議はない。看護師不足、労働過重が言われて久しいが、大きく改善されることはなく、現場は疲弊し、多くの看護師が燃え尽きて病院を去っていく。この映画は、看護という労働現場は、これでよいのかとわれわれに問いかける。

 象徴的なのは、新調したシューズがわずか一日でぼろぼろにくたびれてしまうところ。そんななかでも、同僚がユーモア全開でフロリアの苦しみを受け止めてくれたり、手を焼く患者が思わぬ優しさを示してくれたり。映画には愛とねぎらいがちりばめられてもいる。

 そういえば、わたしの連れ合いも看護の世界で日々格闘している。映画を観終わった後、急に電話しなきゃという気持ちになり、家の片付けが出来ていないことを謝った。口先だけに終わらないで、本の山を今日こそ少しは整理しなきゃ。