1898年の米西戦争当時の政治漫画 「端から端まで1万マイル」。アメリカの支配の拡大を示している。右下には100年前のアメリカが小さい地図で示されている。

 
児玉繁信(全労協全国一般福山ユニオンたんぽぽ執行委員) 

1) アメリカの世界支配の変質

 アメリカの世界支配戦略は、高圧的で暴力的な「経済的国家戦略」に大きく依存するように変わり、外交や多国間的解決策を追求しなくなっている。
 アメリカの「経済的国家戦略」が、他国を統治したり、気に入らない政権を転覆させる露骨な手段としてより多用されるようになった。トランプ政権は公然とかつ露骨に「米経済的国家戦略」を効果的な手段として行使している。経済制裁によって、資金、貿易、金融、市場へのアクセスを遮断し、ある場合は一方的に関税をかけ有利に取引し、他の場合は相手国の経済を混乱させ政権転覆の一手段として利用している。「米経済的国家戦略」が米国の外交主要な部分にとって代わっている。強制的な圧力として、アメリカに各国を従わせる手段として頻繁に使うようになっており、極めて悪質で有害である。

2) 「米経済的国家戦略」は、もはや「戦争」だ!

 最近、スコット・ベッセント米商務長官が、ダボス会議(2026年1月19日~23日)で「経済的国家戦略」という言葉を使った時、「イラン経済に打撃を与え混乱させ、イランの人々を街頭の抗議行動に引き出し、その機会をとらえてイランの体制転換を促す」という意味で語った。ベッセントは、公然とかつ誇らしげに、内政干渉を語ったのである。
 これはもはや「戦争」だ。アメリカ帝国による経済力の注目すべき使い方だ。他国の経済を押しつぶし政権転覆を狙っている。
多くの国々は、これまで経済的な貧困から抜け出そうと努力してきたし現在もしている。これは実に困難な課題だし、このためにどれほど多くの人々が長い期間、努力を重ねてきたか、これは数世代にわたる人類の歴史的な事業に他ならない。アメリカはいまや人類のこの事業に対する敵となって立ち現れている。アメリカの「経済的国家戦略」は、文明の破壊であり、戦争そのものである。こうした手段が、トランプのアメリカの道具となっているし、アメリカだけが行っている。

3) アメリカ帝国の支配――領土を奪うのではなく間接支配

 アメリカ帝国は、領土を得るよりも間接的な支配を追求してきた。時には侵攻し反米政権を転覆させた後、傀儡政権を樹立し、レジーム・チェンジによる間接支配を実行してきた。
 アメリカのそのような戦略の実行は1890年代に始まった。没落しつつあるスペイン帝国に口実をつくって戦争を仕かけ、1898年にキューバ、フィリピン、プエルトリコを手に入れた。セオドア・ルーズベルト大統領は、モンロー主義を修正し、アメリカは南北アメリカ大陸の警察官となり、アメリカ大陸ではどの政権が政権に就くかはアメリカが決めると宣言した。
 1954年グアテマラでハコボ・アルベンス・グスマン大統領(1951-1954)が、半植民地・アメリカの属国から脱却するため、自立経済化と土地改革を行おうとした時、アメリカ政府はアルベンス政権を打倒し、親米のカルロス・カスティージョ・アルマス軍事独裁政権に置き換えた。
 これはほんの一例だ。こういう政権転覆作戦を数えれば、アメリカ大陸だけで、数十件に上る。ボストン・カレッジ准教授リンジー・オルーク(Lindsey A. O’Rourke)は、著書『秘密の体制転換(Convert Regime Change: America‘s Secret Cold War)』(2018年出版)で、1947年~1989年の間にアメリカが行った「秘密」の体制転換作戦は、64件に上ると指摘している。ノーム・チョムスキーもアメリカが行った数々の政権転覆作戦を指摘していた。
 アメリカの現在の「経済的国家戦略」は、この政権転覆作戦に起源があり、発展してきたものだ。

4) その手法は?

 その手法は、経済を圧迫し弱体化し混乱を引き起こし、その後CIAの政治工作によって育成した反政府グループによって政権を打倒し、親米傀儡政権に置き換える。CIAの一連の作戦であり、成功した政権転覆作戦はパターン化した。いわゆる過去39年間、「カラー革命」と呼ばれたのは、これだ。
 例えば、2003年ジョージアの「バラ革命」(シュワルナゼ政権を打倒し、アメリカに支持されたサーカシビリが政権を握った)や2004年のウクライナで起きた「オレンジ革命」(大統領選でヤヌコビッチが当選したが、不正投票と騒ぎだし、再投票した結果、アメリカの支援を受けたユシチェンコが当選し、ユシチェンコ政権が成立した)がそうだ。これらは経済的手段で政権を弱体化しゆすぶった後、仕かけた体制転換作戦であった。
 つまり、アメリカによる国家操縦術である。アメリカの戦略の一部だと理解しなければならない。トランプ政権となって、より露骨にかつより下品に、この作戦を実行している。
 ベネズエラのマドゥロ大統領夫妻誘拐のように、通常は隠す政権転覆作戦の実施を、あからさまに語っている。カナダやグリーンランドも、アメリカの支配下に置きたいと、そのまま言葉で語っている。これまでは隠して実行してきた。

5) 最新の作戦 その1、ベネズエラ

 最近の出来事に目を向けると、ベネズエラとイランがアメリカによる政権転覆工作の標的となっており、「経済的な手段」が直接的な役割を果たしている。
 ベネズエラの場合、アメリカは四半世紀にわたってチャベスーマドゥロ政権を打倒すると公言してきたし、実際に打倒工作をしてきた。エクソン・モービルやシェブロンなどの米大手石油会社、米鉱山会社による自由な略奪利権が脅かされないように、である。なぜなら、ベネズエラ政権は、アメリカ企業の権益を制限し、ベネズエラ国民のために自国資源を使うと決めたからだ。
2002年にはCIAがベネズエラ軍の一部によるクーデタを試みた。アメリカ政府はクーデタを即刻、支持したが、1日しか持たなかった。なぜならば当時の大統領ウーゴ・チャベスには国民の支持があったからだ。
 その後、アメリカ政府は経済的手段による政権転覆にますます頼るようになった。経済制裁である。これが加速したのは2010年だ。アメリカ地質調査所がベネズエラの石油埋蔵量が世界最大であると認定した。その時、ベネズエラ政府は石油埋蔵資源を国家と国民の利益のために使うとあらためて表明し、ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の所有にすると決めた。
 その結果、アメリカ政府は政権転覆の道に邁進するのである。エクソン・モービルやシェブロンなどの巨大石油会社は、アメリカの政治家、政権、議会に巨額の献金を拠出している。

 2014年にアメリカは、ベネズエラで「カラー革命」を仕かけた。人々は街頭に出た。人々が自発的に街頭の出たと信じる人々もいるが、事実は大きく違う。アメリカが経済制裁したことで、ベネズエラは石油の売り先を失い、輸出を大幅に減らした。それで生活必需品は輸入できずインフレは高進し、人々の生活水準は下がり、ベネズエラ経済は混乱したのである。何が原因であるかは、誰の眼にも明らかだ。
 経済的混乱があれば人々は生活を守るために、政府に要求しデモとなる。このデモに乗じてCIAやその関連団体が資金提供し育てたグループを動かし、社会的混乱をさらに大きくし、政権転覆を狙う、これが「カラー革命」だ。CIAはこうした作戦に深く関与している。
 きちんと調べてみればわかる。調べもしないで、CIAや関連団体に買収されたメディアの偽情報に踊らされている人が数多くいる。そのような情報の発信は、アメリカの大手メディアを通じて世界中に配られる。それがアメリカ社会と日本を含む西側社会・先進国社会の「常識」になっている。
 CIA ばかりではない。全米民主主義資金(NED)、全米民主国際研究所(NDI)、国際共和研究所(IRI)、米国国際開発庁(USAID)などの機関も、反政府「市民」団体に資金を配り、現地メディアや組織した団体・NGOと協力して、不安や混乱を煽る。この種の秘密工作の典型的な手口だ。何度も成功しておりパターン化している。

 もちろん、地元の抗議者たちもいる。経済が混乱すれば、政府に対して不満や異議を持つ人たちが生まれるのは、間違いない。その際、騒ぎを起こし「ベネズエラ政府は抗議活動を弾圧した!」という「事実」をつくり、アメリカは非難を浴びせ、反政府活動の組織化、資金提供、人々の動員、マスメディアの買収と宣伝、偽情報の伝搬、武器の供与・・・・を行う。「ベネズエラ政府から弾圧があった」ことを口実に、アメリカ政府は更にあからさまな制裁を加える、あるいは反政府勢力に武器を送るという流れになる。武器を持ち込んだ抗議行動など自然発生的に起こるものではない。これら全体は、アメリカがその役割を果たしている政権転覆工作である。

 例えば、オバマ大統領は2015年、「ベネズエラはアメリカの国家安全保障上の緊急事態をもたらしている!」と宣言し、制裁をエスカレーションさせた。「世界最強のアメリカが、ベネズエラに脅かされている!」というは、おかしなことだ。この時、マドゥロ政権は倒れなかった。
 2017年にトランプが登場した。トランプは「では、ベネズエラ経済を叩き潰そう!」ということにした。
 こうして始まったのが懲罰的な経済制裁の強化だった。ベネズエラの外貨準備を没収し、口座を凍結し、PDVSAを制裁対象の企業として指定し、他の国の企業・銀行がベネズエラと取引できないようにした。アメリカが用いた手段は多岐にわたり、数多くの緊急法令、特に国際緊急経済権限法が存在する。この法令は米行政府に広範な金融制裁を課すほぼ無制限の権限を与え、ベネズエラ経済をドル決済システムから切り離すことを可能にしている。
 要するに、国際ビジネスを行う際に、取引の媒介としてドルを使用し、国際取引の支払や決済を国際銀行を通じて行う。取引はドル建てのため、最終的には米国の銀行が米連邦準備制度理事会(FRB)に保有するドル口座が関与する。したがって、アメリカは国際貿易の支払に対して、強制力を発揮できる。
 例えば、ベネズエラが輸出した石油の代金としてドルを受け取る銀行・企業や、国営石油会社PDVSEが石油設備の修理や操業のための支払を行う銀行・企業などが、その制裁対象になる。
 こうしてトランプ政権はベネズエラに対して、包括的で厳しい制裁を課した。2016年から2020年の間に、ベネズエラの石油生産量の約4分の3が失われた。石油はほぼ唯一の輸出品だった。ベネズエラ経済は崩壊した。通貨は下落し、インフレは高進し、輸入は激減し、人々の生活水準も低下した。経済が弱体化し、混乱が起こり、人々が不満を持つのは、当たり前だろう。
 ベネズエラ国民一人当たりのGDPは、2016年から2020年の間に、約3分の2減少した(IMFによる)。これは戦争よりもひどい、大災害だ。景気後退ではなく、経済の破壊そのものだ。
 2019年、トランプは別の大統領を指名するという、これまたばかげたことを実行した。ある日突然、フアン・グワイド(Juan Guaido)が本当の大統領だと言い出した。「グワイドとは誰だ!」皆が首を傾げた。アメリカ政府がグワイドを指名して「正当な大統領だ!」と宣言した。ほとんど、冗談のような話だ。しかし、そこには、二つの意味があった。
 一つは、「アメリカが経済制裁を利用して差し押さえたベネズエラ資産は、いまやグワイド氏のものだ」と主張したことだ。つまり、アメリカは自らの力を使って、ベネズエラの大統領を勝手にすげ替えたのだ。
 二つ目は、トランプがアメリカの約60ヵ国を巻きこんでこの動きに同調させたことだ。それは、ヨーロッパ諸国、日本、豪、カナダなどを指している。欧州諸国のほとんどは「グワイドが大統領だ」と同調した。ある意味では想像しがたいことが起きた。ヨーロッパ諸国、「先進国」がアメリカの属国に成り下がっている現実が目の前に現れたのだ。世界はこんなふうに変わってしまっている。
 2025年トランプは突然、「我々はベネズエラ経済を崩壊させ、政権を弱体化させた。今こそ侵攻すべきだ!」と言い出した。その時、ニューヨーク・タイムズなどの主要メディアは、「マドゥロ政権に対するベネズエラ国民の不満が非常に大きく、人々は苦しんでいる」というばかりで、その原因を作り出したアメリカ政府の経済制裁は、何も語らない、根本的な原因については、一言も説明しないのである。

 ドル決済ができなくなったベネズエラ政府は、ドルを介さない人民元で、石油を中国に売ることにした。最近は中国向け石油輸出が急増し、中国との関係がより密接になりつつあった。この動きは、トランプに危機感を抱かせた。「このままだとベネズエラは中国経済圏に入ってしまう! 緊急にこれを止めなければならない」。2025年12月に公表した「米国家安全保障戦略(NSS)」では、「南北アメリカ大陸はアメリカの勢力圏だ!武力介入も辞さない!」と書いている。
 これが、2026年1月3日、米軍が不法にもマドゥロ大統領夫妻を拉致するという暴挙に出た背景である。あからさまな国連憲章違反、国際法違反の行為を実行したのである。

 ついでに確認しておくが、ヨーロッパ諸国、日本、豪などのアメリカの同盟国、あるいは「先進国」と自称してきた国々の政府は、アメリカの行為を少しも批判しなかった。アメリカの同盟国政府が、政治的に劣化していることが露わになった。日本政府はアメリカの顔色を窺い「戦略的あいまいさ」をとることにし、何も非難しなかった。米欧日などの「先進国」が、いかに劣化しているかをここに見ることができるだろう。
 ただ、トランプはマドゥロ大統領を誘拐したが、ベネズエラ政府を転覆させることはできていない。米軍をベネズエラに送り、長期に駐留する大規模な戦争を、今やアメリカは避けたいのだ。
 ベネズエラの石油生産再開の条件としてトランプ政権は、中国・イラン・ロシア・キューバとの関係を断ち、石油生産において米国と独占的に提携することを要求している。不当な要求である。
 中国は確かに、アメリカの作戦に不意を突かれ、ベネズエラ石油の輸入を停止せざるを得なくなった。現在、中国はベネズエラの石油を買っておらず、カナダのオイルサンド石油に切り替えている。
 アメリカの干渉のもとで、今後、ベネズエラ政府がどのように政権運営できるか、その方向は定まっていない。

6) 最新の作戦 その2 イラン

 イランの出来事も同じ話だ。アメリカは何十年にもわたって、イランに包括的な制裁を加えてきた。
 トランプが二期目に就任した時、最初の行動の一つがイラン経済を徹底的に破壊するための追加措置をとることだった。トランプは、イランは「緊急事態法」に該当する、したがってイラン経済を徹底的に打ち砕くように命じた。
 米財務長官のスティーブン・ムニューシンは、財務省を使い他国を圧迫することを厭わなかった。彼は「緊急事態運用」の仕組みを発動した。そのことをムニューシンが、2026年1月19日~23日開催されたダボス会議中にフォックスビジネスとのインタビューで語っている。
 米国財務省の制裁を運営している部門である米財務省外国資産管理局(OFAC)は、イランを国際的なドル建て取引から完全に切り離すことで、実質的にイラン通貨リヤルを崩壊させる作業にとりかかった。米財務省は世界中の銀行に対して、「イラン企業と直接、または間接的に取引を行えば制裁する」と通告した。イランから遠く離れた場所で、貿易を仲介しているだけでも標的にされる。
 ムニューシン財務長官はこう述べた。「我々はイラン経済を打ち砕くための制裁を発動した。2025年12月までそれは成功した。イラン通貨は暴落し、ドル不足が発生した。その結果、人々の不満は高まり、街頭の抗議行動に出た。事態は前向きな方向に進んでいる!」。この発言は驚くべきものだ。内政干渉、政権転覆作戦を公然と宣言している!
 もちろん、主要メディアは同調している。ニューヨーク・タイムズもワシントン・ポストも、ウォールストリート・ジャーナルも、真実を伝えない。そこの書かれている物語は「イランの人々がイラン政府の腐敗と無能に抗議するために街頭に出た!」とある。「アメリカ政府の仕掛け」が暴かれた後でさえ、主流メディアは暴かれた事実を報道しなかったし、それどころか、無視して同じ物語を流し続けている。日本のメディアもこれをそのまま繰り返している。
 「イランの人々が街頭に出たのは、アメリカの仕掛けによるものだ。これが抗議の原因だった!」と主流メディアのどこも書かなかった。アメリカの大手メディアはこの政権転覆作戦をになう機関の一部として機能するに至っているということだ。

 これはアメリカ政府による政権転覆作戦の発動である。
 通貨リアルは下落し、インフレが高進し、電力・ガスの供給が止まった。ペゼシュキアン大統領は国民に謝罪した。イラン国内における当初の抗議は静かなデモだった。イランの生活者、バザールの商人は輸入品価が上がり、商品価格が上がって困ってしまい、静かなデモに参加した。
 そのデモに、CIA、モサドに雇われた者たちが紛れ込み、武器を持ち込み、経済危機へのデモから、ハメネイ師打倒、現政権打倒の声に変えた。1月7日以降、警察とデモ参加者の双方に発砲、放火により多くの人が亡くなった。パーレビ国王の息子が政権打倒を呼びかけ、トランプは支持した。イラン政府発表(2026年1月21日)によると、この日までに3,117人の死者があったという。死者の数が多数に上る。デモと警察双方に銃撃し混乱を大きくした勢力が存在する。武装グループはSNSで連絡を取り各地の行動に参加していたので、イラン政府はSNS を止めた。現在では、武器を使った抗議活動は沈静化している。

 アメリカは混乱つくりだし、イランへの軍事作戦、攻撃の機会を狙っている。2025年6月13日~24日のイスラエル、アメリカによるイラン攻撃(12日間戦争)では、イランの極超音速ミサイルがイスラエルの軍事基地、産業施設を破壊し多大な被害をもたらした。この時ネタニヤフは、たまらずアメリカを通じて停戦に持ち込んだ。しかし、イスラエルとアメリカは決してイラン戦争をあきらめていない。失敗を繰り返さないように、イラン国内を経済的に政治的に混乱させ、その上で次のイラン攻撃、イラン戦争を狙っているのである。
 アメリカ軍はその戦闘態勢をとっている。空母エイブラハム・リンカーンは2月にオマーン沖に入り、2月20日には、空母ジェラルド・フォードが地中海に入った。2026年2月中旬以降、アメリカ軍は二つの空母打撃群を中東に展開させ臨戦態勢に入り、イラン攻撃のチャンスを狙っている。きわめて危険なかつ緊張した状況である。この緊張は、現在もなお続いている。

7) アメリカの経済国家戦略に未来はあるか?

 アメリカの経済国家作戦は、2014年ウクライナのマイダン革命でも発動した。クーデタ―を起こし、ヤヌコビッチ政権を打倒し、民族主義右派、ネオナチが政権を握った。ウクライナで成功したので、その成功体験から同じことを続けている。
冷戦後の1990年代、一極化した世界では、アメリカは経済的な強制力を使わずとも政権転覆ができた。しかし、アメリカの力は後退し多極的な世界が出現し、ジレンマが生まれている。ライバル中国やロシアの台頭を防ぐために、経済的な強制力を行使する動機が強まっているのだが、一方で行使すると代償が大きくなる。ドルを持つと制裁の対象となるので、グローバル・サウスの国々の間で、ドル以外の通貨を使用しなければならないという動機が広がる。
 今や中国が、経済の一つの極として存在する。「一帯一路構想」、産業のサプライチェーン、技術・産業・輸送などで代替となりうる中国経済の存在が大きくなっている。銀行・通貨・swiftの代替手段はドルに比べ遅れているが、形成されつつある。経済制裁で石油輸出を止められたベネズエラも、中国に売ることを模索していた。イランも現在は中国を主な石油輸出相手としている。

 ドルの代替手段は、早いスピードで形成されると推定できる。実際のところ、ドル以外の通貨による決済は技術的には難しくない。世界中のある銀行がドルを扱っておれば、依然としてアメリカの制裁が及ぶ。しかし、ドルとは全く別の決済が現実に出現すれば、代替えとなり一挙に拡大する。必要なのはドル体制から完全にドルから切り離された経済であり、出現すればアメリカによる制裁の影響を受けない経済はできてしまう。
 中国の銀行は、今のところドル、swiftから切り離されることを望んではいない。しかし他方で、中国は代替的なシステムをすでに構築しており、各銀行間決済システムで運用される新しい非ドル建ての機関が出現しつつある。
アメリカの経済制裁があれば、この代替え手段の成長はより早いペースで進む。必要になるからだ。イランやベネズエラにとってはすぐさま必要だ。経済制裁されているロシアもそうだ。
 ドルを扱っている銀行は、やはりいつまでもドルを扱うことに流れるから、非ドル取引を自由にできない。課題は、ドルと無縁の新しい機関を設立する必要があるということだ。
 したがって、アメリカ政府がドルを武器に経済的国家戦略を実行できる期間は、もはや長くは続かないということだ、ドル支配は崩壊の過程に入った。アメリカが経済的国家戦略、経済制裁を行使すればするほど、ドルから離れる国と銀行は多くなり、新しいシステムが稼働し始めることになる。その過程が急速に進み始めた。これもまた、現代世界の急速に変化の一つであるし、多極化した世界の移行の実質的な内容である。 (2026年2月23日記)