「憲法九条」の理念から遠ざかったことが敗因
<柴田武男>

中道改革連合の衆議院選挙での大敗を受けて、憲法九条遵守が敗因とする論調が跋扈しているがそうだろうか。「週刊ポスト」(2/27・3/6合同号)では、「リベラルは死んだのか」(写真)という特集を組んで憲法九条不要論を合唱しているから、この特集からどんな論調になっているのか確認してみた。
例えば作家の橘玲氏は「中国の経済成長と軍拡によって台湾情勢が緊迫化するなか、米トランプ政権の要請もあって、日本の防衛力強化の重要性が増している。だが現在の自衛隊には軍法がなく、 法に基づく民主的な統制ができないという根本的な欠陥がある。それにもかかわらず 「護憲」のままでは、憲法改正や法整備の議論に入れず、政府案に反対するだけだ。これでは有権者に見捨てられるのも当然だろう。」と指摘している。この指摘には「トランプ政権の要請」「中国の経済成長と軍拡によって台湾情勢が緊迫化」という二つのキーワードがある。まず、トランプ政権に対する無条件の信頼があることに驚く。ここには、トランプが例えばベネズエラでの軍事侵略の事実について無関心と無視がある。トランプ政権の危険性が考慮されていない。
「台湾情勢の緊迫化」も常套語であるが、中国政府は一貫して建前として「民主的平和的な統一」と言っているのだから、日本政府はこの中国政府の建前を全面的に支持するとして「民主的平和的統合路線」を固定化させる努力こそ必要なのだ。そして、最大の問題は憲法改正の議論を阻止してそれで 有権者に見捨てられるのも当然という結論である。
中西輝政京大名誉教授は「今の国際環境は武力による現状変更が各地で行われている。それに対してリベラル政党は自ら武力を使ってそれを抑止したり、抵抗することを忌避する。「戦争はイヤ」 で思考を止める。言葉でそう言わなくても国民にはこれまでの姿勢、「臭い」でわかる。その姿勢に国民は幻滅している。」と論じているが、ここにも「 武力による現状変更が各地で行われている。」という現状への無批判の肯定があり、さらに「 自ら武力を使ってそれを抑止」という論理を振りかざす。武力で国際紛争は解決できないし、そうするべきではないと言うのが敗戦で日本が学んだことではなかったのか。そして、この憲法九条の論理が中道改革連合の大敗となったのか。
この問題を考えるとき、 橘玲氏の「ただ、野田佳彦代表らがすべて間違っていたとは思わない。公明党と中道改革連合を結成するにあたって、「安保法制は違憲」「原発再稼働反対」 といった従来の主張を取り下げたのは、現実に向き合う姿勢として正しい。」という指摘が参考になる。中道改革連合は 「安保法制は違憲」 といった従来の主張を取り下げたのだ。実質的に集団自衛権は合憲として憲法九条の基本理念から遠ざかったのである。国際紛争は武力で解決しない、出来ないという敗戦から学びそれを文言とした憲法九条の理念から遠ざかって、 国際環境は武力による現状変更が行われていて大変だ、 という議論に呑み込まれてしまったのである。
確かに、トランプ政権は暴力を剥き出しに米国の覇権を世界の中心に据えようとしていているが、カナダの首相はダボス会議で 「2大超大国とは一線を画して、ミドルパワーが連携しながら多元的外交、多国間外交をしていく」と演説をしている。軍事大国である隣国の脅迫に屈せず外交の必要性を訴えている。これは、国際紛争は武力で解決しない、出来ないということだ。武力ではなく外交で国際紛争は解決していく、これこそが今世界で最も求められている考えなのだ。だから、ここでの結論は、中道改革連合は憲法九条を遵守したから大敗したのではなく、その理念から遠ざかったから大敗したということになる。


