黒鉄好(取材・文責)

今回の衆院選では、最高裁判所裁判官国民審査も併せて実施される。とはいえ、今回の総選挙が、前回総選挙からわずか1年4か月しか経過していないこともあり、対象裁判官は2人だけ。国民審査は、15人の最高裁判事のうち「前回総選挙後、新たに任官した裁判官」または「任官後10年を経過した裁判官」だけを対象としているからだ。
私からは、今回、審査対象となる裁判官2人に「不信任」を呼びかける。

<沖野眞巳(おきの・まさみ)裁判官>

定年退官した第3小法廷・宇賀克也裁判官の後任として任官。東大法学部初の女性部長。民法の専門家としての「業績を評価」され最高裁判事となったが、問題は、沖野氏が東大法学部長時代、女性の権利を大幅に後退させることにつながる「共同親権」を一貫して推進してきたことである。

2024年5月7日、共同親権導入に向けた民法「改正」案を審議する参院法務委員会に参考人として出席した沖野氏は、「現行法では離婚後も夫婦双方が共に親権者という立場で子の養育に関わる道は全く閉ざされています」「(夫婦が離婚後、一方だけを親権者に定める現行法では)子にとって不利益となるおそれがある」などと主張している。深刻なDV(ドメスティック・バイオレンス)によって、離婚後、身を隠して生活しなければならないケースも多く報告されている女性側の事情などお構いなしに、DV夫に子への養育への道を開く共同親権容認に、沖野氏は大きな役割を果たした。

多くは夫側のDVから逃れるために、やむなく離婚せざるを得なかった女性が親権獲得後、子どもが父親に会えないことのどこが「子にとって不利益」なのか。目の前で父親による母親への暴力を見せられながら育つ方がよほど「子にとって不利益」ではないのか。このような考えは私にはまったく理解できず、沖野氏が最高裁判事にふさわしいとはとても思えない。

(参考資料)第213回国会 参議院法務委員会会議録(令和6年5月7日、参議院ホームページ)
 https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=121315206X00920240507&current=5

<高須順一(たかす・じゅんいち)裁判官>

ジャーナリスト後藤秀典氏によって東京電力との深い関係が暴かれ、反原発運動関係者から「袋叩き」になった第2小法廷・草野耕一裁判官の後任として任官。草野氏に関しては、私もこれまで各所でたびたび報じてきた。一連の強い批判によって、最高裁は草野判事の後任者をいわゆる「5大法律事務所」から選定することができない事態に追い込まれた。

高須判事は「町の小さな法律事務所」(いわゆる「町弁」)からの起用である。福島第一原発事故に関して国の責任を否定した2022年6月17日の最高裁判決(第2小法廷)を「元東電顧問法律事務所の経営者」として主導したと思われるのが草野判事だ。その路線からの転換を期待する声もあっただけに、1月9日、原発事故による「自主」避難者の住宅追い出し訴訟で、福島県による追い出しを追認した高須判事には、心底、がっかりした。

判決当事者となった「自主」避難者は、福島県が斡旋した都内の国家公務員住宅(東雲住宅)に居住していた。災害救助法に基づき提供された「みなし仮設住宅」で、関東財務局が福島県に「使用許可」を行い、福島県が「自主」避難者とセーフティネット制度に基づく賃貸契約を締結し、貸し付けていた。

福島県は、内閣府防災担当部局と打ち合わせた上、自主避難者が生活再建できないまま困窮している事情などお構いなく、住宅提供を打ち切る決定をした。しかし、行き場のない避難者が退去を拒むと、退去を求めて避難者を提訴するという暴挙に出る。1審福島地裁、2審仙台高裁ともに、国家公務員宿舎の所有者でも管理者でもないはずの「無権限者」福島県の主張を認め、追い出しを許可。仙台高裁に至っては判決確定前の仮執行まで認めてしまったため、仕事も得られず、所得もない状態で、自主避難者は次の行き先も決まらないまま退去を余儀なくされたのである。

すでに「自主」避難者側はみなし仮設住宅から、仮執行によって退去したものの、裁判は避難者側の上告で最高裁で続いた。1月9日、第2小法廷は県の訴えを相当とした1〜2審判決を、事実経過のろくな検証もせず容認。高須順一判事も、県の措置に問題はあるものの、国による県への使用許可は有期のもので、時期が来ればいずれ見直すべきものだとして、追い出しを容認する多数意見に賛同した。

この判決に対し、三浦守裁判長が出した反対意見は、避難の権利を認める見事なもので、画期的といえる。判決から10日後の1月19日に行われた記者会見で、三浦裁判長の反対意見について見解を問われた内堀雅雄福島県知事は、壊れたスピーカーのように「県の主張が認められたものと認識しております」と繰り返すのみ。この事実こそ、高須判事も賛同した判決(多数意見)に一片の正義もないことを雄弁に物語っている。

「壊れたスピーカー」が繰り返すように、裁判自体は敗訴であり、無収入の「自主」避難者にはこれから数百万円の未払い家賃が待ち受ける。任官前は民法専門家として「弱者の立場に立つ」と人権派を気取っていた高須判事だが、任官から1年も経たずしてすっかり「最高裁の中の人」になってしまった。あの気概はどこに行ってしまったのか。人間とは権力を握ると、かくも簡単に変節するものなのか。

(参考記事・資料)
・福島第一原発事故による「自主」避難者住宅追い出し事件 最高裁第2小法廷判決全文(裁判所ホームページ)
 https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95340.pdf

・最高裁が多数決で上告を棄却、敗訴確定に射した一筋の光 「住宅提供打ち切りに合理的根拠なし」三浦守裁判長は反対意見で福島県知事を断罪、区域外避難の相当性も全面的に認める〜東雲追い出し訴訟(「民の声新聞」2026年1月10日付記事)
 http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-846.html

・反省の色ない福島県知事 定例会見で最高裁判決について問われるも三浦反対意見≠ヨの言及避ける 担当部署も「判決は『上告棄却』だ」(「民の声新聞」2026年1月19日付記事)
 http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-847.html

・原発事故15年目の最高裁判決、自主避難者への住宅供与打ち切りの"無法"を指弾した裁判長「反対意見」の意義(「東洋経済オンライン」2026年1月20日付記事)
 https://toyokeizai.net/articles/-/930444