久下格

 夭折した故多田謡子の遺産をもとに、友人たちで運営してきた多田謡子反権力人権基金は、2025年12月20日、東京・お茶の水の連合会館で第37回多田謡子反権力人権賞の発表会を開催しました。発表会には90名が参加。受賞者には、正賞として多田謡子の著作「私の敵が見えてきた」が、副賞として30万円が贈られました。
 基金の詳細は下記サイトをご覧ください。
https://tadayoko.net

●長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会●
(炭鉱水没事故を朝鮮人強制連行の加害責任として追及)

 歴史から抹殺されてきた戦中の長生炭鉱水没事故では、184人の犠牲者中136人が強制連行されてきた朝鮮人でした。1991年に発足した「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」の目的の一つは、日本人の謝罪と反省の言葉と犠牲者の名を刻んだ碑の建立でしたが、「そこに遺骨があるのに、なぜ収集しないのか」という韓国の遺族の強い声を受けて遺骨の収容を決意します。

 30年以上の粘り強い闘いの中で、韓国の政府や国会は支援する動きを強め、各国の優秀なダイバーも協力、多額の寄付も集まり、ついに坑内から遺骨を持ち帰ることに成功しますが、日本政府は「安全問題」を口実に支援を拒んでいます。

 重機が掘り当てた坑口から勢いよく流れ出てきた海水の映像を見ながら、井上洋子さんが来年こそは犠牲者の遺骨を遺族のもとに返す年にする、ヘイトする側でなく、在日コリアンに寄り添う日本人をめざすと語ると、会場は共感の拍手に包まれました。

●瀬戸大作さん●
(貧困問題と取り組む。非正規滞在外国人の人権を守る闘い)

 発表会当日も開催中の相談会の会場から駆けつけた瀬戸大作さんは、「相談者の多くは所持金が100円しかない。貧困はますます深刻になっており、相談者の多くが心を病んでいる」という実態から話をはじめました。行政が紹介した「無料宿泊所」の、とても住めない荒廃した部屋の写真、悲惨な「食事」の写真は、貧困との闘いがこうした行政と貧困ビジネスの癒着をただす、権力との闘いでもあることがよくわかるものでした。

 瀬戸さんは、生協職員として福島原発事故の避難者支援にかかわる中で貧困問題と向き合い、さらに、難民問題、日本で生まれ日本で育った若い在留外国人が親と共に強制送還されている問題にもぶつかってきた経過をたどりながら、「反貧困ネットワークにはたくさんの若い人たちも参加している」「貧困の問題を社会の問題として取り組んでいく」と述べました。

● 重信メイさん ●
(ガザでのパレスチナ人虐殺を真実の抹殺として告発)

 重信メイさんは、私たち日本人が接するパレスチナ報道の大半を、世界を支配する巨大メディアが発信していること、そうした企業にイスラエルの人脈が深く入り込んでいることを説明しながら、メディアによるイスラエルを免罪する報道を詳細に批判しました。それは直接的検閲、削除はもちろん、「イスラエルの封鎖により(餓死)」と書くべきところ「深刻な食糧危機によって(餓死)」という客観的表現にする、一方的ジェノサイドを「イスラエルとハマスの戦闘」と書く、救急隊員に対する攻撃に「パレスチナの救急隊員が主張」と付け加えて真偽不明にするといった、さまざまな手法が使われています。

 2023年以降、ガザでは278人ものジャーナリストがイスラエルによって殺害されています。重信メイさんが、国際法違反の攻撃にもひるまず、自らの命を犠牲にして、ジェノサイドを告発し続けているジャーナリスト全員に対する賞として、反権力人権賞を受け取ると述べると、会場は大きな拍手で包まれました。