
「国家情報会議・情報局設置法」の成立に強く抗議し、
今後のスパイ防止関連法制の制定に反対する市民団体共同声明 <要約版>
1 はじめに
本日、国家情報会議設置法=国家情報局設置法が参議院で可決・成立した。自由民主党、日本維新の会、公明党、国民民主党、参政党、日本保守党、チームみらいが賛成した。立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組、社会民主党、沖縄の風、ながえ孝子議員が反対した。
私たちは、本法の可決・成立に強く抗議し、同法の運用を厳しく監視していく。今後進められようとしている、スパイ防止法、外国代理人規制法、対外情報庁法案、インテリジェンス関係者安全保護法案などのスパイ防止関連法制の制定に強く反対していく。
2 スパイ防止法案の制定は二段階で進められようとしている
2025年10月の自民党と日本維新の会の連立政権合意を踏まえ、スパイ防止関連法制が段階的に進められている。第1弾が今回成立した国家情報局法であり、内閣総理大臣を頂点とする国家情報会議と、その事務局としての国家情報局を設けるものである。
さらに第2弾として、来年の通常国会には、外国への通報目的の秘密漏えいに死刑・無期拘禁を含む厳罰を科す法案や、外国代理人規制法ないし外国勢力活動透明化法案が提案される可能性が高い。これは、日本市民が外国の個人・団体と政治活動に限らず幅広い協働を行うこと自体を疑いの対象とし、国家情報局等への登録を義務づける制度である。
また、CIAやMI6に相当する対外情報庁創設構想も示され、日本独自のスパイを養成・海外派遣し、仮装身分の付与などを認める制度の提案が想定されている。
3 日本はスパイ天国ではなく、国家情報局設置の立法事実はない
(1)既存の情報機関の活動についての検証抜きに強大な情報機関を作ることは許されない
政府・与党は、「日本にはG7で唯一情報局がなく、そのため『スパイ天国』だ」として国家情報局設置を正当化してきた。しかし国会審議では、既存機関では対処できない具体的なスパイ事例は示されなかった。内閣情報調査室、警備公安警察、自衛隊情報保全隊、公安調査庁など既存の情報機関の歴史的検証も反省もないまま、さらに強大な機関を創設することは許されない。
(2)石破政権時には、政府は、「日本はスパイ天国ではない」と答弁していた
石破首相名の答弁書において、政府自身が日本を「スパイ天国」とは考えていないと明言していた。防衛省の再発防止策資料でも、外国スパイによる漏えい事案は挙げられていない。つまり、国家情報局を新設しなければならない具体的必要性は、政府自身の過去答弁とも整合せず、立法事実が示されていない。
(3)情報機関は両刃の剣としていた後藤田正晴氏
過去の自民党政権が総合情報機関の創設を自制してきたのは、情報機関が「両刃の剣」だからだ。警備・公安警察出身の政治家である後藤田正晴氏は、情報機関は政府が統制を誤れば民主主義を傷つける危険性があることを指摘していた。歴代の自民党政権の下で、戦争放棄と平和的手段による紛争解決を掲げる日本国憲法のもとでは、国家情報局や対外情報庁のような機関は、平和国家日本にそぐわないとされてきたのではなかったのか。
4 国会審議で明らかにされた国家情報局法案の問題点
(1)活動限界を画する法規範の不在
本法には国家情報局の禁止行為が明記されていない。政党に資する活動の禁止、政治的中立性の確保、収集してはならない情報の範囲、プライバシーの核心や弁護士・依頼者間、ジャーナリスト・取材源間の情報取得禁止など、諸外国で一般的な制限規定が欠落している。
(2)情報が国家情報局に一括集約される危険性
国家情報会議の長が首相である以上、各省庁の保有情報が首相権限を梃子に国家情報局へ集中する危険がある。政府答弁では、マイナンバー関連情報や能動的サイバー防御法に基づいて集められたネット情報も必要に応じ利用し得るとされており、個人情報の目的外使用が常態化する懸念がある。情報の分散は権力分散でもあり、広範な国家情報の強制的一元化は民主主義に反する。
(3)これは組織法にすぎないという言い訳は成り立たない
政府は本法を単なる組織法と説明するが、諜報活動を「非権力的行政活動」として実質的な法的規律なしに認めれば、活動限界の曖昧な情報収集が野放しになる。明確な作用法も監督制度もないまま、巨大な情報集約機関をつくることは法治国家として許容できない。
(4)国家情報局が公安警察主導の政治警察化する危険性がある
国家安全保障会議と国家情報会議がともに首相主導で並立することで、政策部門と情報部門が分離されず、警備公安警察がその中枢を握る危険があるとする。そうなれば、警察の秘密部門が政治を壟断し、バランスの取れた経済・外交政策を遂行できず、日本の国益を害することとなる危険性がある。
(5)普通の市民活動が国家情報局の監視の対象とされる可能性がある
高市首相は政府批判デモが情報活動の関心対象となることは一般に想定し難いと答弁したが、これは事実に反する。公安警察による市民運動の情報収集を違法とした大垣署事件判決や、自衛隊情報保全隊が各種市民運動や署名活動を監視していたと認定した仙台高裁判決は、平穏な市民活動が現に監視されてきたことを示している。誤った情報の蓄積が、市民の誤認逮捕につながる危険があることを名古屋高裁は指摘している。
(6)政府要人や政治家に対する公安警察による監視がすでに実施されている
加計学園問題では前川喜平氏の私生活情報が読売新聞によって報じられた。官邸や公安警察による監視と弱みの把握が、官僚や政治家、メディア関係者にまで及んでいる可能性があり、国家情報局創設によってさらに深刻化しかねない。
5 諸外国における情報機関に対する厳しい規制と監督制度から学ぶべきだ
(1)ドイツの監督制度と相次ぐ司法判断
ドイツ連邦情報局には厳格な法的制約があり、警察権限の不保持、他手段で得られない情報に限る収集、私生活の核心領域の絶対保護、弁護士・ジャーナリスト等からの情報収集禁止、誤取得情報の削除義務などが定められている。さらに独立の監督機関やデータ保護の仕組みも存在している。それでも過去に報道機関に対する盗聴問題が起きており、情報機関には極めて慎重な統制が不可欠であることが示されている。
(2)オランダの情報機関への統制
オランダでは、強い権限付与と引き換えに、事前審査、事後監督、議会監督、司法関与を組み合わせた多層的統制が整えられている。しかも国民投票や苦情申立て、学術的批判を通じて制度が継続的に修正されている。日本でも秘密活動を行政裁量に委ねない統制回路が必要だ。
(3)韓国国家情報院に対する規制の強化
韓国では、国家情報院が反権力的な著名人のブラックリストを作成していたことや野党大統領候補に対するネットへの中傷記事作成に、国家情報院が関与していた反省から、2020年改正で政治的中立、職務外利用禁止、必要最小限原則、政治活動関与禁止、違法な検閲・通信傍受・位置追跡の禁止などが明文化された。2024年の尹大統領による非常戒厳宣言時には、この改正法を根拠に国家情報院幹部が違法命令への加担を拒否した。明確な法規制が民主主義の防衛に役立ったのである。
6 情報機関に対する独立第三者機関による監視こそが求められていた
(1)既存の情報機関をも対象としてこれを監視する独立第三者機関が必要
情報機関の行動を規律する権威ある国際人権原則であるツワネ原則は、情報機関を政府から制度的・運用上・財政的に独立した監視組織が監督すべきだとしている。新設機関だけでなく、既存の公安警察や公安調査庁、自衛隊情報部門も含めた統一的な監視・監督が必要である。
(2)5月26日の内閣委員会に立憲民主党が提出した修正案について
立憲民主党は、対象情報の限定、人権侵害防止と政治的中立確保の調査審議追加、国会報告義務、第三者機関設置の検討という4点の修正案を出し、原案に反対した。活動の限界を画する規範が、抽象的なものにとどまり、第三者機関設置について「検討する」とされ、設置が義務化されていない点など不十分な点はあるが、原案より大きく前進した内容であり、修正案を提起して原案に反対したことは、市民活動の成果であったといえる。
(3)公明党、国民民主党、参政党の対応に疑問
公明党は歯止めの必要性を認め、国民民主党や参政党も別法案で第三者機関の必要性に言及していたのに、なぜ熟議せず歯止めのない原案に賛成したのか、その対応は疑問である。
7 市民活動の今後の方向性について
(1)有効な歯止めを欠く国家情報局法は廃止するしかない
本法は成立したが、今後も、私たちは、与野党に働きかけ、政治警察となって暴走するかもしれない国家情報局に、その活動の限界を画する有効な規範が定立されるように、働きかけを継続していく。
この機関について、明確な活動限界を画する有効な規範が定立され、この機関を含む日本の情報機関全体について、これが適正に活動しているかを独立の立場でチェックできる第三者機関がどうしても必要であり、これらの規制と機関を欠く法律は廃止するしかない。
5月26日の国会審議最終盤の波状行動には、国会周辺だけで3200人超が参加した。今後も与野党に働きかけを続けていく。
(2)来年の通常国会に提案が想定されるスパイ防止法案関連法について、その動向を注視し、問題点を掘り下げて、空前の大きな反対運動をつくっていく
本年夏にも有識者会議が立ち上がる見通しであり、そこで検討される関連法案の内容を注視し、問題点をさらに掘り下げ、より大きな反対運動をつくっていきたい。
(3)私たちはあきらめない
私たちの取り組みは、成立は阻止できなかったものの、全国的な連帯と市民運動の広がりを生み、立憲民主党による修正案提出と原案反対という成果を引き出した。そして、来年度に予定されるスパイ防止関連法制全体に対抗するための橋頭堡を築くことができた。私たちは、今後もあきらめず、戦争に反対し、平和憲法を守ると言い続ける自由を守るために取り組みを続けていきたい。
2026年5月27日
経済安保法に異議ありキャンペーン、秘密保護法対策弁護団、「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、改憲問題対策法律家6団体連絡会、憲法9条を壊すな!実行委員会、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)

