
<評者:黒鉄好>
毎木曜掲載・第434回(2026.5.7)
『ルポ 過労シニア』(若月澪子・著、朝日新書、本体870円、2025年11月)

1985年の労働者派遣法によって登場した派遣労働に対しては、派遣先企業と派遣元企業の「労働力売買」であり、私自身は今も反対の考えを持っている。一方、職場では不本意ながらも派遣会社との間で短期労働者の派遣契約に関する仕事もしている。その仕事の中で、特にコロナ禍以降、労働市場の変化を感じることが増えた。具体的には、求人を出しても応募してくるのはシニアばかりで、現役世代からの応募はほぼない。
こうした変化の背景に何があるのか、また私自身がシニアへの入口年齢にさしかかる中で、「5~10年後の自分」に当たる年齢のシニア層が今、どんな働き方をしているのか知る必要があると考えたことが本書を手に取った動機だ。
第1章「終わらない子育て」はいきなりショックだった。40歳を過ぎ、中年世代になっても引きこもり状態のままの子どもを、シニアに入っても働いて養わなければならない親がかなりの数に上る事実だ。80歳代の親が50歳代の無職の子どもを養う「8050問題」が言われて久しいが、このまま推移すれば、引きこもりが続き、無年金となった子どもを90歳代の親が養う「9060問題」に移行するのは間違いない。
第2章~第3章では、シニアの厳しい生活実態に迫っている。1000~2000万円程度の退職金をもらえる恵まれたシニアでも、退職後の年金水準に合わせた生活水準引き下げがうまく行かず、退職金が数年で「溶けた」後は厳しい生活に追い込まれている。大企業を退職した人でさえ、年金だけでは生活できず「生涯現役」を強いられるのは、そもそも年金支給水準(基礎年金だけだと月7万円程度)が低すぎるからだ。
現在の労働法では年齢や性別を限定して求人を行うことは禁止されているので、シニアに対する求人は「60~70歳代活躍中」などの謳い文句で行われる。私の地元では、北海道という地域特殊性もあり、農業関係(農産物の選別や運搬など)の求人もあるが、大部分は全国共通の傾向として清掃、調理・給仕、介護などがほとんど。いずれもエッセンシャルワークだが低賃金重労働のものばかりだ。特に介護に関しては、未経験者の転入も多い反面、あまりの「報われなさ」に労働者が定着しない実態も描かれている。「“支配層”側にいるごく一部を除き、1億日本人全員、低賃金で死ぬまで『活躍』してください」――本書ではそこまであけすけに述べられていないが、安倍政権時代、働き方改革とともに華々しいスローガンとして踊った「1億総活躍」の真の狙いがまさにこの点にあることが、「60~70歳代活躍中」というあけすけな求人広告を通じて、私には見えてくるのである。
本書の書評としてぜひ論じておくべき重要な点が、さらにもうひとつある。多くの「貧困シニア層」が生まれる背景に、教育費の借金が重くのしかかっている人が少なくない点だ。子どもを普通に成長させ、正社員として社会に送り出す。少し上の世代(現在の70~80歳代)が「たったそれだけ」だと思っていたことのハードルがかつてなく高くなっている。それは間違いなく子ども世代の置かれている困難を反映している。コロナ禍が明け、売り手市場の中で若者の就職戦線は好転、初任給も上がっていると言われる。だが光あるところ影もある。本書は親世代に逆流する二極化の「影」をくっきり描いている。

