第104回・2026年3月19日掲載 

5つのメディアによる特集号「反極右共闘戦線」

極右活動家死亡事件の真相とリヨンの極右デモ

 リヨンで死亡した極右活動家カンタン・ドゥランクの事件について、メディアで報道されたのとは異なる内容のビデオや証言があることを前回のコラムですでに指摘したが、詳細がわかるビデオ(立っている彼が病院に行くのを拒んだ場面の映像など)がその後SNS上で流れ、極右の自称「フェミニスト」団体ネメジスの虚言が明らかになった。また、ユマニテ紙は2月23日、ネメジスの行動様式を暴露する記事を載せた。リヨンのネメジスのリーダーの女性は昨年10月、極右団体の男性とのSNSのプライベート・トークで、彼女が「極左活動家」をおびき寄せるために自分たちが「餌」になると提案したのだ。この事件を最初に発信したネメジスの代表アリス・コルディエは、彼女たちを守るためにカンタン・ドゥランクらが30人もの武装した反ファシスト(あるいは「服従しないフランス(LFI)」の護衛)に襲撃されたという嘘を極右系テレビで語った。実際は、ネメジスが呼んだリヨンの武装した極右活動家たちが、昨年秋のシナリオのように反ファシストを待ち伏せた。

 ネメジスは2019年に創立され、差別主義のプラカードや横断幕を左派のデモで掲げる嫌がらせハプニングなどが主なアクションだ。代表の女性はアクション・フランスセーズ(フランス最古の極右運動)を経たカトリック系の若い極右活動家で、極右資本家ボロレのメディアに頻繁に登場して発言し、極右政党(ルコンケット、国民連合(RN))だけでなくルタイヨー前内務大臣からも支持を受けた。ドゥランク事件に関する虚言や罠を仕掛ける行動様式が露呈したため、LFIや左派の市民が解散を要請している。3月8日「国際女性の権利の日」の女性デモでは、主催のフェミニスト団体がネメジスの参加を断固拒否したため、姿を見せなかった(もう一つのシオニスト系差別主義フェミニスト団体「私たちは生きる」は警察の護衛の元に参加したが、途中でデモの参加市民たちに追い払われた)。3月12日には、彼女が親衛隊(SS)の文字を両手で形作るネオナチのしぐさをしている2022年の写真(極右青年のSNS投稿)が暴露され、白人男性優位主義者やネオナチと親しい「フェモナショナリズム」の正体がますます明らかになった。しかし、内務省はいまだネメジスを解散させていない。

 カンタン・ドゥランクについても、最初に報道された「平和的なカトリック教徒」ではなく、暴力的極右団体と共に行動する活動家だったことは前回も述べたが、3月13日にインターネット新聞メディアパルトは3週間にわたる調査の末、ドゥランクの経歴や過去のツイートの一部を掲載した。それによると、2020年に大学に入った彼は熱心なカトリック信者になるが、学業を中断した2022年の秋以降にファシズムに傾倒し、極右活動家になっていく。過去2年間のツイート(X)では、自分をファシストだと定義し、ナチスを賞賛して「『我が闘争』を全ての高校生が読むべき」とか「私はアドルフを支持する」などとネオナチの投稿をしている。また、ヴィシー政権下の反ユダヤ主義のジャーナリストや戦後の歴史修正主義者の本を推薦するほか、人工中絶法を可決させたシモーヌ・ヴェイユを罵り、フェミニスト弁護士だったジゼル・アリミを「墓から出して銃殺しろ」と書き、白人優位主義のレイシズム投稿(「黒人は皆殺し」など)を頻発した。

イタリアで始まったスローガン「私たちはみんな反ファシスト」

 この記事の後、死後すぐ実はネオファシストだった青年に国会が黙祷を捧げたのは共和国の恥だと告発する声が増大したが、国会議長は取り消しを拒否した。同様に、2月21日にリヨンで行なわれた極右デモも、フランス共和国の歴史に大きな汚点を残すだろう。この日は82年前、移民労働者レジスタンス・グループ(パンテオンに埋葬されたマヌシアン夫婦が有名)がドイツ占領軍に処刑された日なのだ。フランスじゅうとドイツ、スイスなどから様々なネオファシスト・ネオナチ・極右グループのメンバー3200人もが集まったリヨンの極右デモを、メディアは大きく報道した。極右の暴力的イメージを隠すために、参加者にはナチス式敬礼動作やシンボル、刺青などを見せるなという指令が出されていたが、いつもの覆面姿はなくてもナチス式敬礼、シンボルと刺青の数々は一部の参加者に見られた。また、過去に暴力事件で有罪を受け、リヨンへ立ち入り禁止になっていた活動家3人の姿も、独立ジャーナリストの取材で明らかになったが、警察は彼らを逮捕しなかった。このデモの主催者女性の夫もその一人で、前回のコラムで述べたようにナチス協力の賛美や暴力行為で拘禁刑を受けたネオナチだ。彼の存在に気づいたイギリスのメディア「チャンネル4」が主催者女性にマイクを向け、「横にいるのはあなたの夫のエリオットですか」と聞くと、「ええ、いえいえ、彼はマックスです」と言い訳した映像がSNSで流れた。

 このデモに参加した極右活動家の世界は、暴力事件や武器所有などでメンバーが有罪を受けて団体を解散されると、新たな団体を作って活動を続ける。前回のコラムで述べたように、リヨンは中でも極右活動が広がり暴力も増大したため、反ファシズム運動「ジューヌ・ガルド」が形成されたのだ。ドゥランクの死を政治利用した極右のナラティブにしたがい、反ファシズムの側が暴力的で極右は問題ないという価値観の逆転が政権とメディアによって流布されたことは、共和国のファシズムへの転落危機を表している。

反ファシズムの反撃

「彼らの考えは悪臭を放つ。彼らの言説は殺す」

 2月23日、左派5つのメディア(日刊紙ユマニテ、月刊誌レザンロキュティブル、独立インターネットメディアのストリート・プレス、ブラスト、ラジオ局ラジオ・ノヴァ)が共同で編集した「反極右共闘戦線」という80ページの新聞特別号が発刊された。3月15日と22日の市町村選挙に向けて、RNの政策、RN市長がいる自治体の実態、極右資本家ボロレとステランの戦略の分析や、反極右のアーティスト、労働総同盟(CGT)書記長、議員のインタビューなどを掲載したものだ。ドゥランク事件が起きる前に校了したのでそれについての言及はないが、5万部が飛ぶように売れて3万増刷されたのは、反極右・反ファシズムの呼びかけを多くの市民が望んでいることを表すだろう。ちなみにラジオ・ノヴァ局は、イスラエルのネタニヤフ首相を嘲笑したために公共放送フランス・アンテールを解雇されたユーモリスト(政治社会風刺のコメディアン)たちを雇用して政治風刺番組を設け、聴取率が8倍以上に増えた。この局のオーナーのマチュー・ピガスはロックイベントなどにも力を入れる資本家で、多くの億万長者資本家が極右になびいたのに対し、反極右を掲げている。

 極右のナラティブに政権やメディアが引きずられてそれを増幅し、大規模な極右デモが行われたことに衝撃を受けた市民たちは、レイシズムとファシズムに対抗する市民の連帯を呼びかけるデモを3月14日、フランス各地85か所で行った。3月8日の女性デモでも反ファシズムのプラカードが掲げられたが、14日はリヨンで10000人以上、パリでは数万近く(主催者側発表10万、警察発表11000人)が集まり、「私たちはみんな反ファシストだ」というイタリア語のスローガンを叫んだ。スピーチやスローガンでは、レイシズムとイスラモフォビアから生まれる警察や極右系市民の暴力が厳しく告発された。

メランションとLFIを悪魔化した雑誌の表紙 危険、マフィア、惨禍、カルト、恥、カオス等々

 それらの被害は近年増大し、死に至るケースも繰り返し起きている。2ヶ月前の1月14日にはパリの20区で、警察の身分調査の最中に暴力を受けたモリタニアの青年が死亡した。何も悪いことをしていないのにひどい暴力を受けて亡くなったのに、加害者の警官たちは逮捕されずにそのまま働いている 2023年6月、パリ郊外ナンテールで警官に殺されたナエル・メルズク(ビデオで警官が至近距離から殺害した様子が残っている)の場合もそうだが、警官は多くの場合、虚偽の証言をして正当防衛を主張する。ナエルの裁判は最初殺人罪で行われる予定だったが、罪状が「殺人罪」から「意図的ではない致死暴力」に変えられた。そこで検察は破棄院(最高裁)にその罪状を元に戻すよう訴えた。ナエルのように警官に殺された移民系の被害者たちの正義を求めるデモが、フランスでは何度も繰り返されている。マクロン政権にかぎらずそれ以前の政権でも、警官による不当な暴力や殺人はほとんど罰せられず、罰せられても軽い刑で、構造的なレイシズムが問題にされることはない。移民系だけでなく環境運動家や社会運動のデモ参加者に対しても、警察の暴力はエスカレートしている。

 一方、ファシズムやネオナチの印や刺青を示し、差別的スローガンを叫ぶ極右デモに対して警察はいたって寛容で、よほどひどい暴力事件にならないと極右の活動家は罰せられない(ネオナチの印を掲げただけでも違法なのだが)。この状況が極右の暴力を助長させたのだ。また、極右のデモを大きく報道した主要メディアは、規模がずっと大きい全国的な反ファシズムのデモをほとんど取り上げなかった。また、国民連合(RN)の議員や候補者の暴力的極右団体のつながりと差別発言は、これまで主に独立メディアによって報道されてきたが、それらを主要メディアはほとんど問題にしてこなかった。それがRNの脱「悪魔化」と差別主義の蔓延に加担したと言えるだろう。同様に、主要メディアは市町村選挙を前に、RNや政権による反ファシズム運動と服従しないフランス(LFI)のバッシングに加担した。

市町村選挙第一回投票

サン・ドニ市の新市長 バリ・バガヨコ

 こうして3月15日、市町村選挙の第一回投票が行われた。フランスの地方選挙は政党や市民グループが候補者リスト(人数は自治体の人口により7〜69人)を作る比例制で、1位のグループは50%の議席を取れる(パリ、マルセイユ、リヨン市議会は25%)。これまでの市町村選挙では、マクロン登場以前に政権交代を重ねてきた保守の共和党LRと社会党が主要な地方都市と数多くの自治体市長と与党を維持してきた。RNは2017年以後、大統領選の決勝戦に残って支持者を増大し、国会議員数も急増したが、前回2020年の市長戦で人口9000人以上の市で勝てたのは15(極右系を入れると16)だけだった。今回の第一回投票でRNと極右系候補が既に当選した市は31あり(不正や差別主義が問題にされていても)、規模の大きい都市ではパリに次ぐマルセイユとトゥーロンを取る危険がある。ニースは保守の現市長よりRNに協力する保守分派が優勢で、とりわけ南仏とフランス北部におけるRNの浸透がさらに進んだことがわかる。しかし全国の得票数を見ると、2014年の市町村選挙での100万票以上から第一回投票では後退し100万に至らなかった。

 一方、第一回投票で躍進が最も目覚ましいのはLFIだ。2016年に発足したLFIは大統領選と国会では左翼の第一党になったが、市町村議会にはほとんど不在(小さい市2つのみ)だった。今回、500の市(10万人以上の全市、3万人以上の市の8割)で候補を立て、左翼共闘を他の政党が拒否したケースが多かったため、200以上の独自リストをつくった。そして、LFIと創立者ジャン=リュック・メランションに対する以前から強かったバッシングが、極右青年の死後はさらに激化した中、各地で250の選挙集会(メランションや主要議員たちの応援演説含む)と活発なキャンペーンを展開した。

 その結果、イルドフランス地域圏で2番目に大きいサン・ドニ市で、LFIと共産党の候補バリ・バガヨコが第一回投票で過半数をとって当選、フランス北部のルーべでもLFI候補が過半数近くを獲得した。また、トゥールーズ、リモージュ、リールなどで2位、その他の市でも世論調査やメディアの予想を上回る好成績を獲得した。第二回投票に向けて極右と保守の勝利を阻むために、他の左翼政党との反ファシズム共闘(リストの合併)をLFIは呼びかけ、トゥールーズ、リヨン、リモージュ、ブザンソン、ナント、アヴィニヨンなどで共闘が実現したが、マルセイユとパリ、レンヌなどでトップの社会党はLFIとの共闘を拒否した。マルセイユはRN勝利の危険があまりに大きいため、LFIは第2回投票を辞退した(極右当選の危険がない一部の選挙区では第二回投票に出馬する。選挙法では、政策を共有しない合併リストの形態も可能なのに、それを拒否した一部の市での社会党の態度は、極右や保守を有利に導き無責任である。

 2020年の市長選結果に比べ11倍を得票したLFIの進出はメディアのコメンテーターを驚かせたが、真面目な世論ウォッチャーや政治・社会学者は、政策プログラム「共同の未来」に基づき、住民の生活に根づいた地方自治体政策(家賃低減、学童の公共交通費無償化、有機給食無償化、公共医療の提供など)を提供したLFIのアプローチの成功だと分析する。近年、市町村選挙においても棄権率が増加し、今回も2014年以前の平均レベル72%強をかなり下回る57,1%だった(前回2020年はコロナによるロックダウン寸前でさらに低い44,6%)。LFIは、とりわけ棄権が多い若い層や低所得層に向けてキャンペーンを展開したが、地方に根を張るにはまだ時間が必要だろう。

 しかし、暴力的、反ユダヤ主義などと選挙前に凄まじい中傷とバッシングを政権や他の政党とメディアから受けたにもかかわらず、LFIはとりわけ都市部では着実に支持層を増やしていることを第一回投票は示した。LFIはリストの1番手を男女同数にし、選挙区の多くの住民を代弁できる移民系の候補者を増やし、レイシズムと極右化に対する措置を政策に含めた。住民の自治(地域の民主主義)を促進するミュニシパリズムの理念に基づき、住む場所(市町村)から「新しいフランス」を築いていこうというものだ。住民投票や議員・市長のリコールも提案している。

 サン・ドニ新市長のバリ・バガヨコはマリにルーツを持ちパリ郊外で生まれ、まさに新しいフランスの象徴的な存在だ。ところが、第一回投票で当選の快挙を果たした彼に、極右系メディアに限らずジャーナリストたちは侮辱的な質問(サン・ドニは黒人の町だと言った、麻薬ディーラーの支援を受けたなど、極右が流したフェイクニュースに基づく)を浴びせた。バガヨコは冷静に的確に虚偽を訂正したが、長年のメディアの極右化がこうした場面でも示されている。また、2月の事件以後さらに高まったファシズム危機に面しても、社会党右派(オランド元首相など)はLFIとの共闘を断固拒んで中傷をやめない。

 第二回投票に向けて極右の地方政治への影響力を抑えようと、反ファシズム、反レイシズムの市民たちはキャンペーンのラストスパートに入った。世界中の人々が憧れる南仏コートダジュールの美しい町々をはじめ、多くのフランスの自治体が差別主義に染まらないよう、市民の抵抗力に期待したい。

            2026.3.18  飛幡祐規(たかはたゆうき)

参照:
コラム第103回 2026年2月22日掲載 フランス:マクロン政権のトランプ化、ファシズムへの転落危機
https://www.labornetjp2.org/news/pari103/
コラム第99回 2025年5月4日掲載  極右化、イスラモフォビアと闘うとき
http://www.labornetjp.org/news/2025/0504pari