永田浩三(ジャーナリスト)

土井敏邦監督は、40年を超えるパレスチナ・ガザの取材、福島第1原発事故、慰安婦問題、日の丸・君が代起不立問題などをテーマにした優れたドキュメンタリー映画で知られる。さらに『異国に生きる 日本の中のビルマ人』も(2012年)も高い評価を受ける。
今回は『異国に生きる』の続編にあたる。2015年ミャンマーは民主化の道を歩み始める。だが、ミャンマー西部のロヒンギャの人たちへの人権侵害が激化。2021年には軍事クーデターが起こり、せっかく手にした民主化は頓挫してしまう。さらに軍事政権の背後に、日本財団や日本ミャンマー協会、日本政府があることを知った土井監督は、再び映画づくりに向うことを決意する。
東京の街かどで、在日ミャンマー人たちは道行く人に支援を訴える。だが反応は冷ややかだ。土井監督は彼ら・彼女らに質問を繰り返す。なぜそこまで頑張るのか。頑張れるのか。返ってきた答えは「パラヒタ」。自分のことは置いて、とにかく困っている人を助ける。どんな人でも助ける。それに迷いはない。映画には、温かい体温と涙があふれている。そのなかで、矛先はわれわれ日本人に向けられる。友好や経済援助の体裁をとりながら、結果として軍部による弾圧を助けてはいないだろうかと。

日本にきた技能実習生の女性たちが掲げる三本の指は、民主主義、自由、クーデター反対を意味する。だが、そもそもわれわれは彼女たちの夢に応える資格はあるのだろうか。この日本に胸を張れるような民主主義や自由があるのだろうか。
土井さんの映画のスタイルはいつも変わらない。登場する人の属性や背景を伝える膨大な文字情報。観る者はそれをしっかり読んだ上で、珠玉のインタビューと向き合う。これ以上シンプルなつくりはない。ひとりひとりが紡ぎ出す言葉に魂がこめられる。聞き流してよい言葉などない。
映画の中に、支援にあたる日本の研究者、弁護士、ジャーナリストが登場する、その一人、田辺寿夫さん。NHKの国際放送・ビルマ語担当のディレクターを永い間務めた。ミャンマーの人たちから「シュエバ」という尊称で呼ばれ、様々なネットワークをつないでこられた。NHKの国際放送、中でも東アジアの言語を扱う人たちは、日本の戦争責任を忘れたことはない。番組の基本になるのは日本国憲法の前文だ。平和のために放送は役に立たなければならない。そのことをいつも実践してきた。
私が土井監督に出会ったのは、東欧の変動の後の湾岸危機の時。岩波書店の『世界』など活字の世界で活躍していた土井さんがテレビの世界に関わるようになった頃からのお付き合いだ。以来、作品のお手伝いをすることも多いが、今回は私の時間がとれず、映画館で初めて見せてもらった。
土井監督は相手にほれ込んで作る人。登場する人はみな素晴らしく、ほれぼれする人たちだ。衆議院選挙の結果を見て、しょんぼりした方もおられると思うが、この映画は人間ってなんて素晴らしいかを気づかせてくれ、元気がよみがえってくる。3部構成、171分は決して長くない。ぜひご覧ください。
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『在日ミャンマー人』 配給:きろくびと 劇場公開日:2026年1月30日 K’s cinema(東京・新宿)、第七藝術劇場(大阪)、アップリンク京都で公開中
公式サイト⇒http://doi-toshikuni.net/j/myanmar/

