<評者:加藤直樹> 
 毎木曜掲載・第422回(2026.2.12)

『リベラルを潰せ』(金子夏樹 著、新潮新書)

 剣呑なタイトルで誤解されそうだが、「リベラル」を攻撃する極右本ではない。「リベラルを潰せ」と叫ぶ世界的な極右運動の背景を取材した本である。刊行されたのは2018年で、著者は日本経済新聞社の記者。その問題意識は、次の一文に示されている。「本書のテーマはプーチンとトランプを底流で結ぶ、この『反リベラル』という思想だ」。

 国際情勢のニュースに関心がある人であれば、アメリカ大統領に就任したトランプが移民を暴力的に拘束したり、途上国への支援を打ち切ったりといった極右的な政策を次々と実行していることを知っているだろう。そして、もっと注意深くニュースを見ている人であれば、トランプ政権が特にウクライナ戦争をめぐって、奇妙なロシア寄りの姿勢を示していることにも気が付いているだろう。

 トランプとプーチンの良好な関係については、以前から囁かれてきた。2016年の大統領選では、トランプが当選するようにロシアが介入した。こうした蜜月の背景にビジネスを通じた利害関係などを指摘する報道もあるが、真相は分からない。そもそも個々の交友や金銭の関係だけで政治や外交を説明するのは危うい。

 それに対して本書が明らかにしているのは、トランプの個人的な関係ではなく、彼を支える福音派などの支持基盤とプーチンを支えるロシアの極右潮流の間の思想上の共鳴関係であり、運動における強い結合である。その昔、「ウラジーミル、君とぼくは同じ夢を見ている」と宣言した日本の首相がいたが、トランプ支持者とロシア極右は、その同じ夢で結ばれてきた。

 権威主義的な家族観・ジェンダー観の復活。LGBTの尊厳の否定。人工中絶や同性婚の禁止――。こうした夢が米ロ極右の結合を通じて世界に押し広げられつつあるさまを、本書は描いている。具体的には、90年代にアメリカとロシアの二人の右翼知識人が始めた宗教右翼NGO「世界家族会議」の始まりと成長を軸に、さまざまなキーパーソンが登場する。

 テレビ伝道で有名なビリー・グラハムの息子フランクリンは、プーチンと会合し、そのゲイ弾圧やシリアへの軍事介入をキリスト教の名のもとに絶賛したという。フランクリンはトランプについても「神から遣わされた大統領」と称える。有名なロシアのファシズム思想家アレクサンドル・ドゥーギンは、第一次トランプ政権をブレーンとして支えたスティーブン・バノンを「思想上の盟友」「ワシントンの最後の希望」と呼ぶ。そのバノンはプーチンについて「興味深い人物。途方もなく頭がいい」と称賛する。

 米ロ合作とも言える「世界家族会議」は、豊富な資金力とネットワークを通じて、反中絶や反LGBTといった目標に向けて国連機関やアフリカ、イスラム諸国へのロビー活動を拡げる。

 プーチンは2010年代以降、宗教右派を自らの基盤として、ロシア社会の右傾化を推し進める。「ゲイ・プロパガンダ法」や「神への不敬を罰する法」を制定し、DVへの処罰を軽くする。その過程で反政府的なロシアのパンク・バンド「プッシーライオット」を弾圧すると、これを絶賛したのが米キリスト教右派の大物論客パット・ブキャナンだ。「伝統的キリスト教を守った。未来がよく見えている」というのである。プーチンはまた、欧州極右との結びつきを強めていった。

 ハンガリーのビクトール・オルバン政権は「世界家族会議」への支援を通じて米ロの保守派の支持を取りつける。トランプ、プーチン、オルバン、そして欧州極右と、ここには今日に続く登場人物がすでにそろっている。90年代に世界家族会議の創始者が嘆いた、「リベラルな価値観の蔓延による西洋の衰退」という認識は、今やトランプ政権の「国家安全保障戦略」にも盛り込まれた。この戦略には、欧州極右への支援が公然と掲げられている。

 トランプ政権とプーチン政権を軸に、いつの間にか冷戦時代とは全く異なる右翼潮流が世界的に形成されていることを、本書は垣間見せてくれる。日本において、この潮流に自覚的につながっているのが参政党だ。トランプ政権が続けば、日本でももっと多くの勢力がこうした流れにつながっていくかもしれない。

 8年前に刊行された本だが、今の世界を理解する上で一読の価値があるだろう。