気に沿わぬ選挙の投票後、死刑映画週間の特集上映を観る

小泉雅英> 
昨日(02/8)は、雪道に滑らぬように気をつけながら、衆議院選挙の投票所に行った。小選挙区は、自民、無所属(自民系)、中道改革(元社民)の三択でしかなかった。白票を入れようかと迷ったが、結局、中道改革の候補者に入れた。選択肢が少な過ぎるではないか。(前回は、共産党に入れ、落選)。比例区は、迷うことなく、「れいわ」に入れた。(前回は、社民「大椿ゆうこ」と記名し、これも落選)。 こんな厳冬期に選挙を強いる高市早苗首相の、自己チュー解散と、宗主国米帝に媚を売る、植民地的‣奴隷根性丸出しの権力手法が腹立たしく、投票所を後にして駅に向かう途中も、腹立ちで情緒不安定になっていたのか、雪道で滑り、転びそうになった。ほんとうに、十重二十重に腹立たしい! しかも、悪いことは続くもので、駅に着くと、事故があったらしく、「運転を見合わせます」との放送。電車も来ない。ほんとうに、最悪の日ではないか!

結局、渋谷に着いたのは、予定より30分も遅れ、予約していた『SAYAMA みえない手錠をはずすまで』(2014年、105分)を観るのはあきらめ、道玄坂の喫茶店に入った。熱い珈琲で何とか気持ちを鎮め、高市のことなども忘れ、この映画の上映後トークには間に合うように、ユーロスペースに行った。

今日のトークは、神田香織さん(講談師/写真左)と、金聖雄さん(監督/写真右)。神田さんが、金監督の本作品を観た翌年、広島で死刑囚絵画展を観ている会場で、鎌田慧さんから電話が入り、石川一雄さんの事件を講談で演ってほしいと依頼されたこと、いろんな状況から啓示を受け、直ぐに引き受け、鎌田さんの『狭山事件 石川一雄、四十一年目の真実』を基に「石川一雄 学問のすすめ」という講談を創り、石川さんご夫妻の前で演じたこと、その中の刑事の取調べの場面が迫真に迫り、石川さんの悔しさを甦らせてしまったことなどを語った。金監督は袴田秀子さんとの出会いの強烈さ、彼女からこの厳しい現実を生きる強さなど、多くを学んでいることなどを語った。

神田さんは、また、昨年、石川さんの事件を基にした前作を、黒川みどりさんの『被差別部落に生まれて 石川一雄が語る狭山事件』を基に一新した講談、「石川一雄 塀の中の学び」を上演するため、狭山で会場を下見していたところに、石川さんの訃報が入ったこと、その悔しさを、涙ぐみながら語った。金監督も、袴田巌さんの次は石川一雄さんの番だと願い、冤罪を訴える映画を創って来たが、同様の悔しさと共に、再審法の改訂の重要性を語った。ところが、今回の高市による突然の解散で、これまで積み上げて来た議論もご破算となり、暗澹たる思いでいることを語り、神田さんも高市政権への怒りを述べ、会場の熱も上昇し、隣に座っていた方も、私も「全く同感!」などと声を上げ、高市政権への批判が燃え上がる中で時間となり、少々興奮気味で、会場を出た。

夕方から、同じく特集上映の一つ、山本薩夫監督『にっぽん泥棒日記』(1965年、117分)を観た。東北のとある地方で土蔵破りの「妙見小僧」として名を馳せている男(義助/三国連太郎)が、何度目かの逮捕で、獄中で出会うのが、当時、列車転覆事故「杉山事件」の犯人として、でっち上げで収監されていた国鉄他の労組の人々で、彼らの意気軒高とした獄中闘争も知ることになる。釈放後、ダム建設現場で働いていたが、どこで覚えたのか歯の治療技術があることが知られ、たまたま自殺を図った若い女(佐久間良子)を救ったことから、村の人たちから先生と慕われるようになり、その女性と結婚し、子供にも恵まれ、家族三人の円満な家庭を営んでいる。

歯医者としての信望を得て、町の名士として暮らしているところに、「杉山事件」の弁護士が来て、証言を依頼され、泥棒時代の取調べ刑事もやって来る。円満な家庭に不安の波風が忍び込み、義助は、妻にも隠している自らの過去(前科4犯)や偽医者という現在の曝露を怖れ、刑事の脅されるままになるが、弁護士の説得で上京し、刑務所で一緒だった「杉山事件」の被告と会う。嘘のない親子関係に接し、彼らの救援に協力する決心をする。法廷で目撃証言や自らの過去など、すべてを明らかにする、という展開となる。

この映画は、泥棒稼業の実態を描く前半と、刑務所内の収容生活を描く中盤、出所後の偽医者としての生活を描く後半、さらに法廷での大団円、という構成で、白黒の画面を活かした、徹底したリアリズムで、いつの間にか義助に感情移入し、観ながら手に汗を握ってしまう。主人公を演じる三国連太郎をはじめ、全ての登場人物の演技も、迫真的で破綻なく、土着の人々になり切っている。「東北弁」と言っても様々で、私にはその正確さは判断できないが、妹役の緑魔子を含め、登場人物全員がとても自然に聞こえ、土俗的なリアリティを感じた。

暗闇の中で土蔵に手回しドリルで穴を開け、侵入して着物など反物を盗み出す場面、盗品の反物を天井裏に隠す場面、やっと幸福を掴んだと喜ぶ最初の妻(市原悦子)とのつかの間の家庭を描く場面、鉄道線路脇で暗闇を歩く複数の人間と遭遇する場面、ベテラン刑事(伊藤雄之助)による狡猾で執拗な取調風景、刑務所内の生活、3分毎に交代で浴槽に浸かる集団での入浴場面、出所後の、ダム工事の現場労働者から、偽医者として家庭を築き、子煩悩ぶりを見せる場面、今や地元の名士として、代議士の応援演説をする場面、それでも過去の影が忍び寄り、そこから逃れるように、家族で引っ越すことを告げる場面。何も知らないが何か異変を感じ始める妻(佐久間良子)の表情。

自らを投げ打ち、自らの過去と目撃したことの全てを正直に証言する法廷の場面は、爆笑の連続で、見事な大団円で終わる。これまで何も知らなかった妻の顔も、傍聴席で、初めは不安気な表情が、次第に和らぎ、「警察官がまさか嘘をつくとは思ってもみませんでした。」「嘘は泥棒のはじまりと申しますから」という証言で、廷内大爆笑となり、遂に妻も笑う場面。映画を観ている観客も一緒に笑い、ここに来て涙が抑えられなくなった。

この作品は、実際にあった「松川事件」とその裁判を基に制作されたそうだが、お金持ちの蔵から高級反物を盗み出し、転売することを生業とする泥棒から描かれた戦後日本社会と、その中での生活を活写した、見事な人間ドラマであり、埋もれた傑作と言える。この作品の上映を教えてくれた小野沢稔彦さん(映画プロデューサー/評論家)に感謝したい。(2026/02/09)