
中野晃一(「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」呼びかけ人)
高市自民党の対中政策(のなさ)の筆舌に尽くしがたい愚かさと、よりによってこのタイミングで安保法制合憲論に転じた立憲民主党の外交安全保障政策のセンスのなさ(憲法論は横に置いて置いたとしても)。高市の悪意は中道にはないけれど、いずれも「日米同盟基軸を堅持」などと呪文のように唱えているだけで、世界史的な大転換を認識できていない。
トランプのアメリカが、ベネズエラ(キューバ)やグリーンランドなど「西半球」に対して行なっている無理暴虐は、モンロー宣言、トランプ・コロラリー(ルーズベルト・コロラリー)などで解説されるけど、トランプの東アジア政策はそれではわからない。
参考になるのは、1969年のニクソン・ドクトリン。
先立つケネディ、ジョンソン両大統領のリベラルな民主党政権下、ベトナム戦争は泥沼化していた。1969年1月に大統領に就任した右翼の狂人(当時はそう思われていた)ニクソンは7月にグアムで発出したドクトリンで、冷戦の中、世界に過剰に軍事展開したことによる米国の衰退を憂い、アジア諸国(間)の自前の軍事力の強化とそれに伴うアメリカの軍事負担軽減に政策方針の根本的な転換を提唱した。
これを受けて、在韓米軍、在台米軍ともに縮小に転じはじめ、ベトナム戦争はまだまだ泥沼化が続いたが、いずれ韓国軍が米軍を数で上回るようになる。他方、1969年11月の佐藤ニクソン共同声明には「朝鮮半島・台湾有事=日本有事」とするいわゆる「台湾条項」(と朝鮮半島条項)が入り、沖縄返還は、むしろ相対的に機能強化されていく米軍基地付き、しかも非核三原則を欺く核密約付き。
しかし、ニクソン・ドクトリンに基づく東アジア政策の転換のさなかに起きたのが、1971年、ニクソン大統領の電撃訪中発表という、いわゆる「ニクソン・ショック」、米中国交正常化へと大きく踏み出し、佐藤内閣は完全にハシゴ外しに遭う。また、これで佐藤ニクソン共同声明の台湾条項(台湾有事=日本有事)は事実上意味を失っていく。頭越しに米中接近された日本は、佐藤に代わった田中が中国による台湾条項削除要求を受け入れ、1972年に日中国交正常化を実現した。
ちなみに「集団的自衛権=違憲」と明言したことで有名な「1972年政府見解」は、まさに日中交渉のさなかの国会決算委員会の閉会中審査で、かつて60年安保闘争で活躍した労働運動出身の社会党議員(水口宏三)が勝ち取ったもの。この時の質疑で、共同声明における台湾条項(台湾有事=日本有事)の無効化とともに、集団的自衛権行使が違憲であるというのが日本政府の立場である以上、当然、台湾有事も自衛権行使の対象とならないことも政府に明言させている。
昨年11月のアメリカ国家安全保障戦略でも先日出たばかりの国家防衛戦略でも明らかにされたように、今トランプは再びニクソンを倣うかのように、「米国を再び偉大にするために」米国の国力増強を最優先に位置づけ、そのために同盟国への軍事負担の押し付けを進めつつ、中国との共存共栄を探る方向に大きく舵を切っている。もし4月のトランプ訪中で「偉大なディール」が成立すれば、その時ようやく「トランプ・ショック」と日本のメディアは報じるのだろうか。
最新のアメリカの国家防衛戦略には、台湾の「た」の字も出てこない。こんな大転換が進んでいる時に「台湾有事=日本有事」と、安倍による集団的自衛権行使容認以降の事実上の台湾条項の復活を暴露してしまい、トランプが熱心にすり寄る中国を関係修復不能なまでに激怒させた高市は、だから形容しようもないくらいバカとしか言いようがない。しかし、こんな時にわざわざ集団的自衛権合憲論に転じて、対米従属強化の準備を加速させれば政権入りが狙えるかもなどと、党利党略を国の平和と繁栄より優先させる最大野党も、かつての社会党の足元にも及ばず、恐ろしく外交安全保障政策のセンスに欠けている。
こんなことは、国益にも国防にも適わない。到底、現実主義的な外交安全保障政策とは言えない。自ら戦争を引き起こすか巻き込まれるかする危険性を増しているだけでなく、その前に日本の経済、財政が破綻する。
憲法を「武器」として、中国との友好的な共存共栄関係の構築を図り、トランプのアメリカにいいように食い物、捨て駒とされないよう、抵抗し、うまく立ち回らなければ生き残れない。だから、選挙後の政局に備えて、ひとつでも多くの議席を共産党や社民党が勝ち取ることが重要。(もちろん、へなちょこ中道にも善戦してほしいけど、こっちを切ったのは中道のほうだから、あなたたちが選んだやり方で頑張ってくださいとしか言いようがない。)
*中野晃一さんのFBより転載。写真はレイバーネットTVに出演した同氏(2017.10.11)https://www.youtube.com/watch?v=1fDI4LJ0EiA

