毎木曜掲載・第417回(2026/1/1) 評者:黒鉄好

 このままでは私たちは飢える! 亡国農政の実態と脱却策

●『もうコメは食えなくなるのか』(鈴木宣弘 著、講談社+α新書、本体950円、2025年11月)

 ご存じ、反グローバリズム・反TPP派の論客として数多くの評論活動をしてきた鈴木さんは、「令和のコメ騒動」以降、ますます活躍の度合いが増している。
 「はじめに」から序章では、「カネさえあれば食べ物などいつでもどこでも誰からでも好きなだけ買える」というコロナ禍以前の「常識」がまったく通用しなくなってしまった危機的な世界の食糧事情が語られる。とりわけ第4章冒頭の記述は衝撃的で戦慄を覚えずにはいられない。FAO(国連食糧農業機関)が公表した2019~2021年版のHUNGER MAP(世界飢餓地図)で、総人口の2.5%~4.9%が栄養不足に陥っている「飢餓国」に日本が色分けされたというのだ。G7(主要7カ国)でこんな事態に陥っているのは日本のみである。東アジアで比較対象になりやすい韓国、台湾も「白」(栄養不足人口が総人口の2.5%未満)だ。総人口の25~30人に1人が栄養不足の日本はもはや先進国の名に値しない。

 第1章では、今日の事態を招いた原因が減反政策にあることを検証する。ただ、本書ではコメ騒動の発生原因にそれほど大きなページ数を割いていない。「令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?」(2025年10月、文春新書)などですでに論じているからだろう。
 本書で鈴木さんは、石破茂前首相が農水相時代の2009年に取りまとめた農政ビジョンに一定の評価を与えている。生産調整への参加を選択制にし、参加した農家には平均生産費(コメ1俵=60kg)当たり1万2千円を米価の下限として、販売価格がこれを下回った場合には政府が差額を補償する。全農家を対象としないことで、3000億~4000億円の予算があれば実施できるという。高市政権で就任した鈴木憲和農水相は、悪評しか聞こえてこない「お米券」に今年度補正予算で4000億円を用意したが、こんなばかげたことに使うくらいなら生産費と販売価格の差額補償にこそ充てるべきだろう。この生産費保障に似た仕組みは「令和のコメ騒動」を受け、石破前首相の地元・JA鳥取が導入に踏み切っている。

 第5章「日本農業 希望の灯し火」では、生産地と消費地の連携によって活路を見いだしている地域の事例が紹介される。例えば東京都世田谷区では、秋田県や新潟県から学校給食用として有機米を決まった量、固定価格で買い取っている。無責任な国の「需要に応じた生産」路線では、コメ農家は「作ったはいいが、買い手がつかない/安い買い手しか現れない」ことによる米価暴落を怖れるあまり、増産したくてもできない。そこで、川で言うところの「下流」すなわち買い手を先に開拓し、販売価格の安定を保障することで農家に増産を促す。「ローカル自給圏」構想(農業ジャーナリスト小谷あゆみさん提唱)だ。
 思えば、食管制時代、秋田県大潟村で「村ぐるみ減反破り」が成功したのも、篤農たちが自分で販路を開拓することで減反を無視できるようになったからである。年1回しか収穫できず、市場原理による価格形成も機能しないコメに関しては「需要を開拓した上での生産」でなければ生産者も消費者も持続できない。ある種の「計画経済」といえる。
 鈴木さんは、米国によって仕向けられた「胃袋からの属国化」を一刻も早く「胃袋からの独立」に転換するよう訴える。日本が真の独立国、先進国を回復できるか。今まさに問われている。