
<市民連合 緊急声明 2025年12月28日>
【高市首相の台湾「存立危機事態」発言】
高市政権は、先の「台湾発言」によって、中国との本来無用な外交的摩擦を引き起こしました。それは当然、「質問した野党が悪かった」わけでも、「中国政府の情報戦」によるものでもありません。高市氏の発言は、歴代の自民党政権も強固に共有していた外交的配慮や日中関係の歴史的文脈を踏まえず、きわめて軽率なものでした。その意味で、この度の問題では、高市氏の首相としての資質も問われたと言えます。
【対外脅威論の高まり】
しかし、この日中関係の悪化をむしろ「奇貨」として、さらなる排外主義や、軍備拡張を正当化しようとする声も、SNSなどを通じて聞こえてくるようになりました。私たちは、そのことをきわめて憂慮します。隣国への不信を煽り、「戦争への準備」をすればするほど、相手もまた同じ「戦争への準備」を加速させ、結果的に誰もが望まない戦争へと向かってゆく。その「安全保障のジレンマ」について、私たちは歴史に学んだはずです。しかし高市政権は、自らの誤りを正すのではなく、むしろこのような台頭する対外脅威論や不安に便乗する形で、自政権の正当性を維持・拡大しようとさらに危険な道につき進んでいるように見えます。「少数与党」という弱った政権が、対外脅威を必要以上に叫び、不安に苛まれた大衆がこれに喝采を送るようになれば、「戦争」まではあと一歩です。
【歯止めのない戦争準備】
私たち市民連合は、2015年の「安保法制」強行採決という、憲法学者の多くが反対した歯止めのない政府の「戦争準備」に抗して立ち上がりました。その後、2022年の「安保関連三文書」の(国会審議も経ない)閣議決定、23年にはこれを具体化するための「軍拡財源法」や「軍需産業支援法」が成立、その後も、「経済秘密保護法」、「能動的サイバー防御法」、「改定地方自治法」、「改悪国立大学法人法」、「日本学術会議解体法」など、国家の統制を強め、学問の自由や地方自治、市民の知る権利を制限する悪法が次々と強行されました。そして高市+維新の現政権では、「スパイ防止法」や兵器輸出の緩和、そして憲法9条2項削除や核武装論までが飛び出すようになっています。私たちは気がつかないうちに、いつの間にか、はるか遠くに来てしまいました。ここで再び歴史に学べば、社会全体、国全体が「戦争」へと向かうとき、「中道」であること(真ん中にいること)は、必ずしも戦争に抗することを意味しません。
【市民連合と「共闘」の原点】
私たち市民連合は、これまで立憲野党に共闘を呼びかけ、政権交代を目指し、実際に自民政権を追い詰めてきましたが、その根幹には、平和憲法の原則遵守、そして「安保法制」にはじまる政府による戦争準備への反対という大原則がありました。政府が繰り返し唱える「安全保障環境の変化」を、私たちは必ずしも否定しません。しかし、その個々の「現実」認識において多くの相違があるのみならず、政府がその「安全保障」の「環境」自体を積極的に変えてゆく外交努力を怠っていること(むしろそれを悪化させることに手を貸していること)に強く抗議します。日本国憲法は、まさに新しい平和外交の力によってその国際的な「環境」を創造していくことを政府に命じています。米中という軍事大国のはざまにあって、単に一方の軍事同盟の論理に拘泥することなく、新しい東アジア外交を創造することこそ、きわめて困難でありながらも、真に次世代の平和を実現するために日本に課せられた使命に他なりません。
【「中道」の落とし穴――立憲民主党へのメッセージ】
戦争準備に突き進む高市政権のみならず、私たちと歩みを共にしてきた立憲野党、特に立憲民主党もまた、政権奪取や多数派形成という政治の大事を理由に、このもっとも大切な原則を忘れることがあってはなりません。昨今、立憲民主党の一部幹部からも、「安保法制には違憲部分がない」、あるいは「原発リプレイスは条件付きで容認できる」などの発言があったという報道がなされています。これらはいずれも、他の「中道保守」政党と連携するための政治的判断であると容易に想像することができます。しかしそれは、そもそも政権交代後にどのような政治(国家)を実現するのかという政策理念の根幹に関わる問題であり、これを歪めてしまえばまさに「本末転倒」にほかならず、これまでの「共闘」の基盤をも根底から揺るがすことになります。多党化時代に、永田町政治の左右の「中間」で、野党が政権交代を目指して多数派工作を目指す時、社会や政治全体が「右」に移行すれば、いつの間にか批判をしていたかつての「右」と自らが同化することになってしまうでしょう。市民は、そんなことを望んではいません。
政党や共闘が、そもそも何のために結成されたのか、今はその原点に立ち帰る必要があります。私たちは、政治の無原則化を憂慮します。立憲野党は、単に短期的な自党勢力の拡大や表面的な「左右」の立ち位置ではなく、国民、市民、生活者の真のニーズをしっかりと読み取り、次世代を見据えた新たな「信じられる未来」を創造しなければなりません。また、その道筋でしか、真の「政権交代」は実現しないという事実を、私たちは強く訴えたいと思います。世界が戦争や暴力へと向かう大きな歴史的文脈の中で、すべての立憲野党関係者がのちの歴史に恥じることのない、賢明な判断を選択することを強く望みます。

