黒薮哲哉さん、データ駆使して実態語る

5月28日のレイバーネットTV放送では、新聞「押し紙」の深いヤミが暴かれた。番組のきっかけは、レイバーネットに届いた新聞店主からの一枚の告発ファクスだった。
番組のゲストは、この問題の第一人者であるジャーナリスト黒薮哲哉さん(写真右)で、具体的なデータを駆使して隠された実態を語った。「押し紙」とは、新聞社が販売店に本来必要な部数以上の新聞を無理やり押し付け、販売店が売れ残った新聞の代金を支払い、廃棄せざるを得ない状況のことだ。その数字がすごい。毎日新聞の内部資料(2004年)によれば「押し紙」は36%に達していて、その不正収入は年間で約259億円になる。
日本の新聞全体では、年間932億円の不正収入が発生すると黒薮さんは試算している。これが販売店を苦しめていて、数年前には日経本社のトイレで販売店主が抗議の焼身自殺した事件も起きている。一度は国会で問題になったこともあったが、権力側の封じこめは激しく、現在は「押し紙」を「予備紙」ということばに言い換えることで、問題がないことにされてしまっている。

番組では、販売店に届いた新品の新聞がそのまま廃棄用トラックに積まれているショッキングな映像も流された(写真上)。内部関係者が密かに撮影した貴重な映像である。押し紙が「アマゾン」で販売されている事例も紹介された。
イギリス在住の元毎日新聞記者の中川紗矢子さんはオンラインで出演し、ご自身の体験を語った。「押し紙問題は、記者の間では全くと言っていいほど認識や共有をされておらず、販売店や配達員の方々がいてこその自分たちの仕事、ということを忘れています。私が感じていたような疑問や危機感、違和感を持っていたり、新聞社の経営のあり方はおかしいと感じている記者は、遅かれ早かれ呆れて辞めていくのが現状です」と。

メディア業界に詳しい司会役の岩本太郎さんは多岐にわたって発言した。「この問題はジャニーズ以上にやっかいかもしれない。それはテレビはすべて新聞社の系列になっているので、親会社の不正を取り上げることはできないからです」と。黒薮さんが一番心配なのは、「押し紙という弱みを権力に握られていて、新聞社が萎縮しジャーナリズムが権力にコントロールされることだ」という。
隠された新聞社の「不正」を正すことはとても重要である。しかしいっぽう、インターネット時代で新聞が崩壊寸前の状況にあることも事実。「市民の知る権利・公共財産」としての新聞メディアをどう守り育てていったらいいのか、という視点からも考えていきたいテーマである。なお、進行役は今回初めてTVスタッフの馬場朋子さんが担当した。(M)
〔以下、販売店関係者からリアルで寄せられたコメント〕
●押し紙の問題は非常にわかりやすい構造にもかかわらず報道されません。一般の販売店が負わされている金銭的負担は大変に大きなものなので、また、そのまま多くの割合の新聞を破棄していることも全くの無駄なので、早く解決して欲しいと思います。ウィキペディアでははっきりと偽装部数と書かれています。
●押し紙の引き取りは早朝にきていました。残紙屋と言っていました。