『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』

志真秀弘です。

12月10日(日)ブッククラブ読書会(45回)が開かれた。参加者は10人(そのうち二人の方がビデオプレス事務所から参加された)。
取り上げた本は『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか』(小野寺拓也・田野大輔、岩波ブックレット、820円)。

この本は「週刊本の発見」(10月15日)で大西赤人さんが「『インフルエンサー』世論の危うさ」として取り上げ、現在のネット状況の危険性も指摘しています。TBSラジオに著者二人が出演し、本も刷りを重ねているようです。ナチス登場の歴史過程と現在のそれを肯定的に捉えるような議論への危機感とで活発な討論になりました。
ヒトラーの政権掌握の歴史的プロセスなど、本書は歴史研究の成果を活かして丁寧に解き明かしている。
討論では、そこがまず役に立つとの意見が共通して出された。ナチスは権力を握ったのち、歓喜力行団をはじめ巧みな宣伝と組織化で人々をとらえていったこと。その背景に経済危機とそれによる排外主義とがあり、現在の状況との類似性も語られた。権力への沈黙と同意にみられる社会心理的動向にも注目したいとの意見もあった。今の歴史修正主義の実態を見ると、歴史教育の現状も考えないわけにはいかない。たとえば参政党などは環境保護の主張でカモフラージュしながら、その実、正真正銘の排外主義を主張するなど、歴史の教え方の弱点をついてきている。

本書のいう歴史の見方を育てる基本―〈事実〉〈解釈〉〈意見〉という三層に分けて考えていくことはとても大切であり、念頭におきたいとの感想が多くありました。また日本とドイツとの近代化の歴史的差異、特に日本では「天皇を天皇にしていった過程にある権威主義」、戦争責任追及が弱かった点なども改めて考えたい。