上司のパワハラが原因で亡くなった看護師の村山譲さん(享年36)。12年の歳月を経た11月19日、ご両親が北海道から上京し、東京港区の日赤本社に向けて抗議の声をあげた。開口一番、母親の村山百合子さんは「命を助ける病院で、息子は何故死ななければならなかったのか。再発防止、遺族への謝罪を求めてここに来ました」と訴えた。

30歳で地方公務員を辞め、看護師を志した譲さん。2013年4月、釧路赤十字病院の手術室に配属された。新人ならではの緊張によってミスしたことを先輩医師や看護師は叱責し、譲さんは精神を病む。「お前はオペ室のお荷物だ」と言われたことが最後通告となり、9月に自宅で自死した。極度のストレスが強いられる中、「リアリティ・ショック」をひきとって育てていくことは、現場の大切な仕事である。しかし上司である医師は譲さんを叱責罵倒し、人格を踏みつけるという真逆の対応をした。
譲さんは遺書に「申し訳ありません」と自分を責める言葉を残している。人の命を預かる重責に精一杯向き合った彼が、五ヶ月で息絶えてしまった。家族の嘆きはどれほどだったか。特に同じ看護師だった母親の百合子さんの気持ちは察するに余りある。

両親は2018年に労災申請するが不認定。国を相手に行政訴訟を起こすも不当判決。そして、2023年に病院を相手に損害賠償請求裁判を起こした。
譲さんの前にも、同じ医師から暴言を吐かれて自死した同僚がいた。地域に名立たる日赤だが、働く者にとって大きな問題を抱えた現場であることは、多くの人にとって周知のようである。しかし、箝口令が敷かれて声を出せない。当該医師はその後、釧路赤十字の副院長になった。その人事権は日赤本社にある。裁判は12月1日に和解を言い渡される見通しだが、その前に本社前に来たかったと百合子さんは言う。
この日、日赤本社前にはパワハラや過労で亡くなった家族を持つ人たちが20名以上集まった。医師の夫が過労自死した中原のり子さんや、さいたま新都心郵便局で自死した小林孝司さんの妻・明美さんの姿も。皆、どれだけのものを乗り越えてきたのかと思う。
「郵便局過労死家族会」事務局長の倉林浩さんは、「郵便局では軽微なヒューマンエラーでも自転車配達を強要される。村山さんもミスをきっかけに、徹底的に虐められて心を壊した。一般の職場でもあってはならないことだが、ましてや命を救う病院では許されない」。船橋二和病院の看護師・飯田江美さんは「厚労省は、夜間・日曜勤務は主に寝ていることにすればいいとして、労働時間としてカウントしない。これが医師の働き方改革だ。同僚たちの中には『病院を潰さないためには仕方ない』という人もいる。こんな考え方を変えない限り、過労死は絶対になくならない」と声を叩きつけた。

白い巨塔。その体制が変わらない限り、誰も幸せにならない。たくさんの仲間と出会い、つながってきたことが、村山さんご夫妻を歩ませてきたのだろう。そして、お二人もまた、闘う家族を支えている。(堀切さとみ)
動画(12分)https://youtu.be/H6AVbklaG3A

