2024春闘を問いなおす!-「連合春闘」「非正規春闘」の現場から

——闘う労働者が勝利を収める——

今年の春闘はまだ終わってはいないが、世間の勝利ムードは違うのではないかと東海林智
さんが釘をさす。「持てる人々は更に与えられ、持たざる人々は貧しさが増す」それでい
いのだろうか!
両者とも均等に豊かな世をめすなら、声を上げ、権利は主張しなければならない。次に続
く世代の心豊かな生活の実現のために!      報告:笠原眞弓

<2024春闘を問いなおす!-「連合春闘」「非正規春闘」の現場から>
20247/4/10 レイバーネットTV第198号
アーカイブ動画
https://www.youtube.com/watch?reload=9&app=desktop&v=ZNuNhet95U8

●企画・出演:東海林智 (ジャーナリスト)
司会:ワカメ    
:ゲスト:吉田帆駆斗(首都圏青年ユニオン回転寿司分会・学生) 

◆要求より上乗せ回答は労働者の負け!
2024年の春闘はまだ途中。でも、大きく4つに分けられ、筋は見えてきたと東海林さんは
分析。
①大手を中心とした組合の場合 ⇒過去最高の水準
② その高水準は、中小零細へ広がったか
③ 価格転嫁⇒大手の利益を中小零細に分配という公正取引推進はできたのか
④ 非正規春闘はどうなっているか

◆①を見ると、35年ぶりの大幅賃上げ
一般に春闘は、金属系の組合が高水準の回答をとり、中小企業がそれらに続くのがパター
ンになっている。
今年の大手は、第1回集計、3月14日を見ると(示された表は3万を超えているが、金属系
は2年ごとに賃上げ交渉をするので、1年にすると表の半額になる)、16469円(昨年より
+4625円)5.28%と高い賃上げを勝ち取った。1991年の5.66%以来35年ぶりとか。

◆②の課題、中小もあまり変わらないが 
数日後の連合関係の回答を見ると、5.25%と大手と変わらない数字が出ている。例年だと
大企業が大幅賃上げをとっても中小には波及しなかったのだが今年は同じくらいとれて
いる。それは、政府が勧めた価格転嫁推進(大手が中小から適正価格で製品を買い取り、
中小は利益を労働者に分配する)の効果ではないか。ただし、ここに示した中小は、連合
の中でも力のあるところなので、取り敢えず上がった。
連合の中のJAM(ものづくり産業労働組合)の春闘のアンケートを紹介。1400組合のうち
400くらいから回答があった。

労務費に⇒100%反映 11568円 50%反映 12918円 1/3反映 10034円 転嫁率不明(
できていない)8865円の賃上げの結果だった。

◆今年の春闘は大成功か??
JAMは今年平均8135円のベースアップで1999年に労組結成以来最高だった。確かに高水準
の回答は得られた。だが大成功と言えない。
JAMはもともとストなどもする「闘う組合」で、力があって5桁がとれているのであって、
他はどうだったのか。
長年実質賃金は下がり続けていた中で、5桁取ったから大成功とは言えないのでは?と疑
問が残るという。労使が真剣にやり取りして勝ち取ったものではないから。もともと今年
の春闘が始まる前に、政労使が今年は賃上げしようと決めていた。これが春闘なの?「今
年は5%上げる」からといっているばかりか、会社が要求額より上回った回答が出た。例
えば、日本製鉄は2年で3万円の要求に対して、3万5千円の回答をしてきた。これは、「勝
ち取った」のではなく、明らかな労働組合の負けである。日本の春闘の指標企業である日
本製鉄での話である。本来ならば執行部がつるし上げにあうところだ。なので、「過去最
高」と喜ぶ気になれない。

◆全米自動車労組(UAW)からのメッセージ 
本来UAWが全労連にメッセージを送ってきた。本来自動車総連や連合に送って来た。
UAWは昨年大手3社への大きな賃上げに取り組み成功している(4年間で40%の賃上げ)。
要求をのまなかったので、1カ月以上のストライキに突入して4年間で25%の賃上げで妥結。
組合の要求は非常にシンプルで、役員が40%上げているなら、我々にも40%アップできるよ
ねというもの。同時に非正規者を正社員化、休日増等の様々な要求ものませている。
メッセージは、労働者の国際的な連帯を呼びかけるものだった。「……私たちの労働者が
搾取に苦しむとき、日本の労働者が搾取に苦しむのは時間の問題……。企業の強欲に対し
て、共に立ち上がる必要があるのです。……皆さんの闘いは、私たちの闘いです。……」
と労働者の国際連帯を肯定し、「闘う労組」を呼びかけるものだった。

◆スト権と労使交渉
ストライキをしてデモで闘う方針の組合とは、共に闘うというUAWのメッセージは世界の
潮流になっていることを示したものだという。スト権の確立の重要性を東海林さんは、ド
イツのスト権を起てずに賃金交渉をした労組に対し、裁判所は「ストライキ権を背景にし
ない賃金交渉は、集団的な物乞いに他ならない」との判決を下したと紹介。

◆乱鬼龍とジョニーHのコーナー
今日の迷句  非正規の命輝く世をめざす  乱鬼龍
       非正規の悲鳴政治わよ聞こえるか
  ジョニーH替え歌コーナー  回転ずしユニオン(回転木馬)

後半は、今年の2月の非正規労働者の経団連への賃上げ要請行動を経団連側が阻止する映
像から入る。

◆回転寿司職場は名の通り目の回る忙しさ
回転寿司の現場は非常に忙しい。それなのに、「機械を導入したから」と経営者側は人を
減らしてくる。機械は人の代わりにならないのに。しかも労賃はとても安く、忙しい東京
駅地下でも昨年の賃上げ前は、1200円(最低賃金1113)、徳島では900円(896)、仙台が
960円(923)で最低賃金に張り付いている程度だった。そこで労組の非正規の人たちと闘
うことにした。昨年はストを打って1400円(116.7%)の賃上げを勝ち取った。

◆周りの人が組合員にならないのは?
回転寿司で働く人は、学生アルバイトから主婦のパート、高齢者、外国人まで、非正規の
すべてがそろっている。組合に入った動機を聞くと、学生が頑張っているのに大人が放っ
ておけないというものだった。組合員のいない店舗に勧誘に行くと、あまりに生活が大変
で、そのひまがあったらシフトに入りたいとか、参加による職場での不利益が心配という
人も。
東海林さんはその恐怖も分かると。でも、そういう中で声をあげる必要があったのですよ
ねと寄り添う。
「そういうなら、仕事を変えろよ」という人もいるが、仕事とはそういうものではないと、
吉田さん。仕事に対して誇りをもつのが、労働者として当然だと思うという。

◆労組を立ち上げたのは? 中学生の時に読んだ「国労」の本
吉田さんは、小学生のころから「反抗する」めんどうくさい子どもだったと自己分析。中
学生の時、国労の本を読んで感動。強いものに立ち向かうときには、「団結する」という
ことにあこがれを持ったと。

◆労組を立ち上げた結果
ユニオンに参加して、昨年も結果を出せたし、今年も仙台や徳島での行動に参加している。
他の方たちの応援を得て要求を勝ち取ってきた。どこにでも労働者はいるし、地方メデ
ィアも取材に来るし、応援してくれる人はいるというのが今の実感だともいう。

◆仕事の「きつさ」を具体的に!(会場から)
もちろん寿司のようにフロアーの人もグルグル回ている。地域性、客層によって忙しさの
内容は違うが、外国人が多ければ、タッチパネル注文の世話もあるし、厨房では注文に間
に合わず、お客を待たせることもある。会社は否定するが実際は「レシピは勤務時間外に
覚えろ」とか。
スシローに関しては、優秀な弁護士がつき、組合結成直後は店長の腰が低くなったし、労
組結成による嫌がらせはいまのところないと断言。

◆ものの言えない労働者を強く励ますスシロー労組
東海林さんはたった一人の労働者の闘いが、全員のベースアップにつながることを示した
この闘いは、多くの労働者に道を示したという。
吉田さんは、ツイッターなどを見るとそんな反応がある。そういう人たちが実際に声を上
げるまでは、もう一段階があるのだろうけど、それでも大きいと。

◆非正規労働に関して新聞で大きく取り上げたのは?
東海林さんは、これまで毎日新聞で非正規労働について大きく取り上げたことはなかった。
でも今、非正規の労働者が増え、その実態が社会問題化してきた。少数でも声をあげら
れるということを世間に知らせたかったので、1面と社会面で取り上げた。これまでもメ
トロの売店の非正規闘争を取り上げているが(DVD『メトロレディーブルース』あり)、
それはとても重要なこと。だからこのスシローの闘争も大事だと力説。

◆少しずつ広がるスシロー組合員
たった2人で組合を立ち上げたのを知った仙台と徳島の人がニュースで知り、参加。そこ
から少しずつ広がっているとか。今10数人になった。
何事も始まりは、無風の中で出来ることはない。いつだって始まりは理解されない。それ
をどう社会的なものにしていくかが、これからの闘いだと思っている。

◆実際の非正規の闘いは成功?ごまかされてはいけない
東海林さんは、いま、あたかも非正規の闘争勝利が順調に伸びているように言われている
が、実際は作られた成功話だという。イオングループがアルバイト確保のために7%の賃
上げをせざるを得なかったのに、まるで闘争で勝ち取ったように喧伝されている例もある
とか。若者の初任給の賃上げを喧伝しても、一方で中高年はゼロ回答だったりする企業も
多い。生活は等しく苦しいのに、初任給だけ挙げて「勝った」というのはいかがなものか。
この春闘は「勝った、勝った」と浮かれる春闘ではないけれど、その中でもトライキを構
えて闘っているところは年間30件と少ないけれど、少しずつ増えているし、「ストライキ
を戦術にする」ところも広がってきている。そのことをまたの機会に話したい。

吉田さんは、総合サポートセンターの青木共同代表に、連合の大組合は数としては多いが
大企業の男性正社員が中心で、その人たちばかり注目されるが、回転寿司ユニオンは、
数は少ないが年齢、性別、国籍も立場も違う非正規労働者の様々な人がいる。労働者を真
に代表しているのはどっちなのだろうかと問いかけられた。なるほどな、誰でも、どんな
人でも声を上げていい。ぜひとも皆さん、立ち上がりましょう!といいたいと締めくくっ
た。

※東海林さんは、自著を紹介する。「ルポ・低賃金」を地平社から出版する。4月23日発
売予定
※吉田さんは、お勧め映画として『ヤジと民主主義』を挙げた。

次回レイバーネットTVは4月24日。神長亘一さんらを迎え「資本主義より楽しく生きる」
神長亘一さんは、昨年亡くなったダメ連のぺぺ長谷川さんとの共著『だめ連の資本主義よ
り楽しく生きる』を出版した。