堀切さとみ(映画祭スタッフ)

 国粋主義、排外主義の新政党が躍進し、労働問題や戦争反対を訴える政党が伸び悩んだ参院選。その一週間後、ざわつく気持ちを押さえられないまま迎えたレイバー映画祭だった。

 それ以上に、今回はバタバタだった。スタッフの一人として、ウラ事情を明かしたい。アメリカ映画『ユニオン』を、今回初上映することになった。これは土屋トカチさんの『Amazon配達員~送料無料の裏で』と同様、アマゾン労働者の組合結成を描いたドキュメンタリーだ。これによって、アメリカと日本の両面から、巨大企業アマゾンの実態を浮き彫りにすることができる。

 『ユニオン』は日本初上映なので日本語字幕を付けなくてはならない。かなり前から翻訳チームを編成し、動画データの到着を待った。ところが、どういうわけかデータが送られてきたのが映画祭開催の10日前。字幕付け、10日で間に合うの!?

 今はAI翻訳があるじゃないかとおっしゃる向きもあろう。当然頼りましたとも。しかし、AIが訳した日本語はとてつもなくヘンテコで、時々絵文字なんかも出てくる有様で、私たちは途方に暮れるばかり。方言や組合特有の言葉も多いらしく、翻訳チームのメンバーも「何を言ってるのかさっぱりわからない」。こんなんじゃ上映できないよと泣きが入った。

 やむを得ずアメリカの労働運動に詳しい松元ちえさん、山崎精一さんに日本語訳をお願いすることにした。超多忙な中、急なお願いにもかかわらず引き受けて下さり、とにかくほっとした。少しずつ送られてくる日本語訳をはめ込みながら、目から鱗が落ちるようだった。アメリカの労働組合は日本とは違うと言われていたものの、映像を観ただけではわからない。それを、言葉を通して初めて理解することができた。

 当日は上映に先駆けて、山崎さんからこの映画の見どころと魅力について語っていただいた。映画の後のトカチさんの感想もよかった。とにかく上映出来てホッとした。

 レイバー映画祭はこのように新作が多い。今回は『東京タワマンストーリ―』の津田修一さんが、体調不良のため、制作途中で断念せざるをえなくなった。私もこれまで何作か上映する機会をもらったが、いつも仕上がりがギリギリになる。その代わりに横浜・寿町の高齢者を描いた『坂本さんと先生』を上映した。制作者の梅田達也さんに、心から感謝します。津田さんもぜひ再挑戦してほしい。

 映画の作り手といっても、撮影編集だけでなく翻訳・字幕といった世界があり、映画祭は映画を選ぶ人、作る人、観る人、宣伝する人、会場整理する人、さまざまな人たちの力によって成り立っている。主人公は一人一人だ。どこかで自分が関わっていることを実感できたらすばらしい。

 ところでおなじみの二次会だが、30名予定で借り切ったお店に、37名もの人たちが集まったのには驚いた。底が抜けたといわれる参院選。その危機感を抱きつつ、今後に向けて何をしようか。そんな話で盛り上がりながら、思う存分交流することができた。終わりよければすべてよし。また来年、より充実した映画祭にしたい。